第七話 夏の釣りの明暗
毎日お暑うございます。
釣り師としてはこの季節、最高気温だけでなく川の水位もきになるところで、この時期の挨拶としてはさしずめ暑中見舞いならぬ「渇水見舞い」などを貰わないと(貰っても?)元気にならない。
今年の梅雨は期待外れで渇水の川を蘇らせるほどの降水は無かった。
連続して発生した台風も中国地方への影響は少なく、それは災害が起きなかったということだから絶対にそっちなんだけど、釣り人の立場ではもう少しほどほどに雨が降って欲しかったところ。
西中国山地の屋根の遥か上方、
夏の雲が流れる。
毎年そうだが、梅雨入り前あたりからそれまでかなりのハイペースで釣行回数を重ねてきたのがぱったりと止まる。
初夏の暑さと梅雨の降水量が釣りに出掛ける決断を迷わせる事になる。
一度行かない癖がつくとなかなか行き出さないもので(自分の場合はだけど)、この時期釣行の間隔が空く訳だ。
しかし、2002年のシーズンもあとわずかだしここらでいっちょう行ってみるかって久しぶりに重い腰を上げたのは8月に入ってからの事だった。
依然雨は降らず釣行先はとにかく山奥の標高の高げな所を単純に選んだ。西中国山地の中でも1,000m級の山々が連なるエリアへ。
早朝の渓は蝉も鳥も鳴かず、水の流れる音だけが響く。しかし気持ちははやり、毛ばりを結ぶのももどかしい。そして、第1投。第2投、第3・・。ううむ、現実は甘くなく、この時期の釣行先に増水に頼らなくても条件が良さそうなところを探せば、行きつくところはそんなには選択肢は無いと言う事らしい。

足跡だらけの砂地の河原を横目に反応のない好ポイントを遡る。目ぼしいポイントはやはりウンともスンとも言わず、ティペットだけがクモの巣まみれになって消耗していく。
思えば夏の釣りは禁漁間近のそのシーズンの有終を飾りたいという勝手な思い込みがある。半年間の禁漁期間を迎える前に、余韻を引きずるような印象深い釣りをしたい、なんて贅沢な願望が無意識に夏の釣行には組み込まれている。
だから逆に、期待外れの感は解禁からの数ヶ月を上回るのだ。
モンカゲロウのスペントスピナー。
夏でも水生昆虫はしっかりいる。
でもフライはテレストリアル一辺倒。しかも黒い#14のパラシュートばっか。
それでも一日釣りをしていて全くチャンスがないということは稀だ。どんなに過酷な条件でも川の(山の?、釣りの?)神様は必ず2回(くらい?)はチャンスをくれる。
そのうちの一回目はなんとかつかむ事が出来た。とはいえ快調に釣れてたら数に入れないかも知れないサイズだが。
では2回目はというと、これがあった。
しかし、与えられたのはチャンスのみでそれを手に出来るかどうかは自分自身の釣りにゆだねられていた。目の前のプールで突然魚体を見せてライズした魚は果たして27〜28cmはあった。心臓は高鳴りラインをたぐる手は震えた。
静かなプールの水面にラインを落とすのはさすがに度胸がいる。ティペットを長くつぎ足そうかと思ったその時、風が吹いた。波立つ水面に「今しかない!」と、キャストした。
ラインの着水はもくろみ通り波にごまかされ、フライはライズのポイントのすぐ上手へ落ちた。
と、やおら水面が盛り上がり、ライズのあいつが身をくねらせた。ああ、しかし!あろうことか馬鹿な釣り師は(もちろん私の事)まだ魚がフライに食いついていないのにロッドを立ててしまった。
もちろんその後ライズの主は姿を現さず、2回目のチャンスはついえた。
蝉が鳴き出した。
もうひと釣りしますか。