第六話 無斑アマゴ

広島で活動を続けるバンブーロッドビルダーのM氏と話をしている時、アマゴの腹部の斑点の話になった。
釣り歴の長いM氏は「昔のアマゴは腹の黒い点は今ほど多くなかった。」と語る。
美しいパーマークを持つヤマメやアマゴはその模様で多くの釣り人を魅了する。しかし、時として通常よりも腹部の黒い斑点が明らかに多い個体と出会う事もある。腹部だけに留まらず側面のパーマークのあたりから背中にかけてまで黒点がちりばめられた魚を見ると、単に環境や個体差だけでなく放流前の段階での要素もかなり出ているように思う。
確かにヤマメやアマゴの写真を撮っていると、腹部の黒い斑点の密度や濃さにかなり差があるのは気がつくのだが、逆にM氏の言う斑点の少ない個体はあまり気がつかない。
各方面で活躍中のフライマンS氏の著書に宮崎県の川に棲む「マダラ」と呼ばれているヤマメが紹介されているが、この例はM氏の言う「昔は少なかった」斑点が逆に多い個体だ。そして、その本には「無紋ヤマメ」と「無斑イワナ」というタイプも紹介されている。それによると模様の消えた個体は特定されない水系から突然変異的に出現するらしい。
ただ考え方によっては、こんな個体を育てるこの川に明るい期待を抱く事も出来はする。
このアマゴが釣れた翌日、早速M氏に報告に行ったのは言うまでもない。
更にこのアマゴ!
上の写真と同じ川で釣ったものだが、腹部に黒点が全く無い。
果たしてM氏が昔釣った「黒い斑点の少ない」魚とはこんな見た目は奇異とも取れる個体だったのだろうか? もちろんいつも釣っていて見慣れているアマゴとのギャップに慣れていないからそう思うだけかも知れないが・・・。
そして、このアマゴ。腹部には5つの黒点のみが等間隔で整然と並んでいる。太田川水系で五月下旬に釣ったものだ。ここまで黒点が少ないと逆に不自然な印象を受けるが、これが全くの棲む川の環境の影響なのかどうか?
養魚場育ちで黒点が無くなってしまうと言うのも考えにくい。そうなると自然河川で育ちながら黒点が減っていく傾向は、より自然な形態に向かおうとしているのかも知れない。
上の写真の左は良く釣れるタイプのヤマメ。腹部の黒点も多めで養魚場育ちを思わせる。右の写真は少し変わっていて似通った大きさの黒点がよこ一列に並んでいる。黒点の数としては少なめの方だろう。どちらも島根県の高津川水系で釣れた個体だ。