今年二度目の台風の過ぎた週末、からっと晴れるかと思いきや薄曇りの空模様で、でも暑くなるよりはましか、と思いつつインターチェンジを降りる。
ほんの数週間前にこのあたりに来た時にはまだ膝丈だった草が私の目線の高さまで伸びていた事に今さらながら驚いた。川に着くと川辺は台風時の増水の跡が見てとれた。水位自体は下がっていて期待は外れてしまったが、台風の来る前よりは条件は良くなっているはずだ。
川岸には横倒しになった草が増水時の水位を物語っている。
増水の余韻を残す水中花。
ザッと雨に洗われた川の具合はどんなもんか? 早速フライを投じてみたがそうそう朝イチから思うようには反応はない。草の丈だけではなく、クモの巣もかなり増えている。のびのびと竿を振るっていう季節はもう通り過ぎてしまっているようだ。

晴れてはいないが風もなく、なんかじめじめと蒸し暑い。顔のあたりにまとわり付くブヨもうっとーしいし、流れというかリズムが悪い。なにかイヤな予感がする。
今シーズンは派手なこけ方はしていない。それは川歩きの自信の無さの裏返しで、バランスが悪く常にこけそうだから、逆に常に気をつけて歩かざるを得ないからだ。
こういう日は集中力も散漫になりがちだし、いつも以上に慎重に歩こう。
両岸からせり出す緑・緑・緑。
この日最初に顔を出したのは増水に備えて石をたんまり呑み込んだ(ってホントにそんなことするんだろうか?)ような奇異な体型のアマゴだった。石を飲んでいるかどうかは定かではないが、ぱんぱんのおなかでなんか苦しそうにしてました。

その後もシブイ反応をクモの巣や頭上の木の枝を気にしつつ釣り上がるが沈黙が続くばかりで、気温は徐々に上がってきた。
ふとこんなときに出合い頭ででっかいのが出るんだよなーって誰かの声(?)が頭をよぎった。はは、まさかね。
食いすぎだろっ、おまえ。
思うように反応の出ない最初の川に見切りをつけ、次の川へ移動した。まだ午前九時なのにえらく疲れてしまった。
二番目の川はどうやら先行者がすでに釣り上がったあとらしく、最初の川以上に反応がない。近くにそれらしき車は停ってなかったが、林道の水たまりに真新しい轍が残っていたし、川筋のところどころクモの巣が切られていた。どこもなかなかきびしい状況だ。
それでもせっかく来たのだからと、少しの間釣り上がってみた。
流れにチカラを感じるのは流れつづけているからか。
ここも流れの雰囲気は申し分なく、朝一番にこっちに来ていたらと後悔すれど時遅し。
とは言え現れた絶好のプールを前にして先行者がどうのこうのとは言ってられない。考えられるかぎり最高のポイントにいっぱつでフライを放り込んで、これ以上ない流し方をする。
するとこらえ切れなかったのか、たまらずアマゴが飛び出してきた。素早いアタックにどうか?と思ったがぎりぎりフッキングしたようだ。
強い引きでプールを走り回ったヤツ。
まずまずのサイズでこれなら今日は満足して帰れるかなって思ったがすぐその先に「これは逃せんでしょう」っていうポイントがまた見えた。帰りがけの駄賃じゃないけど、もう一匹釣って帰りますかっと軽いノリでフライを投じると、ぶぅわっと水面が盛り上がり、見た事ない水飛沫をあげてフライが弾け飛んだっ!!
コッパアマゴのそれではない事はすぐわかったが、なんの手応えもなくラインは宙を舞った。食ってなく空振りなのは仕方なかった。問題はそのあとだった。
空振りの直後、黒い影がこっちに向かって突進してきた。水飛沫の主だ。勢い余ってか、ライズのあとに危険を感じてか、そいつはその場から離れようとしたようだがそれがこちらに向かってだった。反射的に足をよけて開く格好になった。
「!!」 えっ? 今、足の間を通った?? マジっすか? あろうことか私の股の間を抜いてそいつは下流へ消えて行った(逆に足で挟んじゃえばよかったのか? ってそういう問題じゃないね。さながら真夏の白昼夢?ですかぁ??)
緑に埋もれる渓。ちっぽけな私を呑み込んでしまうような。