厚い雲に覆われた空はすぐにでも雨粒が落ちてきそうだが、まだ持ちこたえていた。

ほぼ一ヶ月振りの釣行はまだ梅雨明け切らぬ芸北エリア。前の日にかなりの雨量を記録し九州では土砂災害も起こったとニュースが報じていた。まだ予断を許さぬ天候ではあったが、いい加減出掛けないと毎週部屋でごろごろでは頭も体もおかしくなりそうだ。
一心発起、高速に乗った。
沸き立つ霧。でもまだ降る雨。
雨は降っていたが雨具は着ない。煮えきった頭を冷やすにはちょうどいい。
気になる水位は釣りが出来ないほどの増水はなく、渇水のやる気の無くなってしまうような状況と比べると上々のコンディションだ。
朝からひぐらしがうるさく鳴くが雨のせいかいくぶん涼やかで過ごしやすい。わずらわしいブヨも集まってこないし、これは快適でわないかっ!!
暑い季節に備えて今回よりダブルホールを導入。
しかし快調なのはそこまでで、張り巡らされたクモの巣に次々と毛ばりをロストし、しかも魚の反応はなし。その上釣り上がって行くにつれ目ぼしいポイントは増水で白泡に消えていることに気づき、一気に意気消沈となってしまった。
一瞬晴れ間が見え、日が射したかと思うとすぐパラパラと雨粒が落ちてきて、この日の釣りの行く末を暗示しているようだ。なんとかしてこの悪循環の流れを変えなければ。
一瞬の陽射し。この日はこれだけだった。
キャスティングを繰り返すうちにだんだん肩が痛くなってきた。久しぶりだったから筋肉も萎えているのだろうか。
この日入渓した川は谷あいの深谷ではなく、雨もダイレクトに落ちてくる。風がなかったのは幸いだったがだんだん体が濡れて冷えてきた。
ここまで来るともうほとんど「帰ろう」モードに突入する。まだ昼前だが天気が回復する気配はまずなさそうだし、この後釣果が劇的に上がるなんて想像も出来なかった。
最後にこの先のプールを、とフライボックスを取り出し毛ばりを結び替えようとした。ふとボックスのすみに刺さっている去年巻いたライツロイヤルが目に止まった。
「これを使ってみるか」
同じ魚でも水面と水中ではこれだけ表情(?)が違う。
何と言う理由がある訳でもなかったが、何か琴線に触れるものがあった。
結び変えて早速キャストするといっぱつでチビアマゴが掛かり、飛んできた。
「!」
この毛ばりを使う事で川の条件や魚影が変わるはずもなく、しかし僅かにこの日の流れが変わったような気がした。このライツロイヤルはすでに去年何匹かを釣っていてかなりくたびれているが、その加減が逆にいいのでは? なんて急に都合よく考えたりもする。
少し気分がすっきりたからもう少し続けて釣り上がると、今度はまともなサイズがしっかり食いついてきた。ほかの毛ばりでも出たのだろうけど、この毛ばりのチカラのような気がしてならない。
(なんていうのはやっぱり考えすぎか?)
イエローダイドのエルクヘアウイングは視認性がよい。 曇天時は水面のドライフライはこのように見えます(魚の視線?)。
結局毛ばりを結び変えてからぱたぱたっと五匹釣れた。ずいぶん短い区間にかたまって魚がいたもんだが、増水時には避難する場所は限られているのだろうか?

来週末には梅雨明けだろう。 テレストリアルパターンが主役になる季節だが、フライボックスの中は寂しい限りである。たまにライツロイヤルのようなパターンを使うのもだらけがちのこの季節の釣りのアクセントになりそうだ。
帰ったらもう何本か巻いとくか。
じゃあ、元気で。