突然の出来事だった。なんの予兆もなくいきなり毛ばりに飛びついてきたその魚は私のフッキングをかいくぐり波間に姿を消した。
「なんでだぁ〜っ」と声を出して悔しがってもどうにもならず、しかしマーフィーの法則ではないが最初に降りた所に魚がいるというジンクスは当たった訳で、それをしっかり忘れて油断したままキャストしたのは半年振りの釣り、そう解禁後第1回目の釣行だからと自分に言い訳をしても後の祭りだった。
まぶしい陽光のフィールドへ。ってなんのことはない、寝坊です(10:00起床)
しかし今日のこの陽気はどうだろう? 快晴、無風、気温13℃。釣り支度をしている時もじりじりと背中に当たる陽光の温度をしっかり感じる。ドライフライを結ぶのを全くためらわなかった。あれほど降った雪も南側を向く山口県のH川周辺には残っておらず、解禁最初の釣行先にここを選んだのは正解だったと思った矢先の痛恨の空振りだった。
「なんで空振りするんだろう? なんでだろう?」とつぶやくうちにテツ&トモの♪なんでだろう♪の歌が頭の中で繰り返し聞こえてきだした。なんだか耳までおかしくなってきたようだ。
フラットなドライフライにうってつけの流れを出合い頭の失敗をぬぐい去るかのようにやみくもに釣り上がったがライズも反応もパッタリなく、半年振りのウェーディングはことのほかこたえたようで、だんだん集中力も途絶えがちになってきた。
やはり解禁第一回目の釣行というものは何と言う訳ではなくても特別な釣りだ。久しぶりの釣り道具に身支度、久しぶりの川の様子。そして久しぶりのウェーディング・・・。おっとっと、足がよろけた!
一度掘り返された区間だが、時とともに落ち着いた流れを取り戻している。
実を言うとこの日2回沈をしてしまった。いくら半年振りとはいえ、そんなに足腰が弱ってるのか? ちょっと考えられない。♪なんでだろう♪ あっ、また。
でもせっかくの解禁で日曜日に人が多いのを押して出てきたのだから、なんとか一匹でも釣らないとっ!
場所を変えて少し上流部へ移動したが、川幅が狭くなる分水量が多く、ここでも苦戦を強いられた(というか反応なし)。
フラットではあるが水量多し。
時間が経つにつれ強まる焦りはやはりこの日の特別さが背中を押すように加速する。焦りと疲れが釣りを雑にさせ全くの悪循環だ。次第に今日はこれまでか? と言う思いが頭をもたげてくる。しかし、その反面このままじゃ帰るに帰れない。
ふと、太陽が山の稜線に隠れたらいさぎよく竿をたたもう、と自分に課した。するとどうだろう、釣り上がる時間ほどには陽が落ちない。ああ当たり前か、東に向かって釣り上がっていたのだから。それならどんどん釣り上がっちゃえばやめなくていいや(ってそういう問題じゃないッスか?)。
それでも日没より先に川通しに進めないところに来てしまった。いよいよここまでか?と七割がた腹をくくり始めていた。
タイムリミット、日没間近。
ただし往生際の悪さは年が変わっても変わっておらず、車に戻る前から最初のあのポイントをもう一度、と気持ちのどこかでもう決めていた。そしてその決意が通じたのか、あのポイントは山あいのすき間からぎりぎり射す斜光が届いていた(届いてなくても関係ないか)。
二度目も突然だった。全く同じ場所で呆気なくフライに飛びついた魚を今度は逃す事なくフッキングした。しっかり伝わる手応えを握るグリップに感じながらそれでもにわかに信じられない。九割方あきらめていたのに・・。すかさずネットを差し出すとなんと半年ほっといた網はかちかちに固まっていて、ラケットのガットのようだった。水に着けてもすぐには戻らない! やむなくそのまま魚をすくい上げると張った網に魚が弾んだ拍子にフックが外れた。あとはもう必死で、ラケットでリフティングするように魚を保持して岸辺へ。すると魚は暴れ、足元はすべりよろけ、テツ&トモが♪なんでだろう♪を歌う。そして・・・。