実際、天気には恵まれていた。
この日も快晴・微風・鼻炎(あん?)。川への遅い到着も、しかし期待は逆に高まり、支度をしている時に車が通るたびに「釣り師か?」とチェックを入れる。
木々のつぼみはほころび、柔らかいフィルターでこしたような陽光が降り注ぐ。遠くうっすら霞む山々と手前の里川。つばめが上空を飛び交い、きらめく水面が目に眩しい。
あとはしっかり釣れさえすれば言う事なし。
野に花咲き乱れ「色」の繚乱が始まる。
で、ものの5分で一匹目。あっけなく手にしたヤマメ域のアマゴは小さめにしてはたくましく、幸先良いスタートにひとりほくそ笑む。
竿抜けの区間なのだろうか? そのあともここぞと言うポイントでは必ず反応がある。ただ、空振りやバラシが多いのは餌を取り慣れない放流魚の性癖か、それとも釣り人の腕か。
今回の川は高低差のあまりない里川で東西に伸びる川筋を東ヘ向かって釣り上がる。午後からは太陽を背にした順光の釣りがこの日の勢いに更に拍車をかけた。
バサッとフライを引ったくったアマゴ。
しかし、好調に見えたこの日の釣りも陽を背にする時間になってから雲行きが怪しくなってきた。
「風」がその起因となった。およそ空の晴れ間からは想像もつかない強風が突然あたりを席巻する。水面のドライフライでさえ宙に舞ってしまい、ロングティペットでのキャスティングは釣り手の下流に着水する始末。
でもちょっと釣りを休んで河原に座り込むと、またしても予告もなくぱったりと風は止みうららかな春の川辺になりすます。そして午後のハッチが始まり、マダラカゲロウの群飛が少しずつ目に付き出した。朝からライズは見てないが、ひょっとしたら今年の初ライズに遭遇できるかもしれない。などと甘く考えていたのだが、再び吹いてきた強風に吹き飛ばされてきたカゲロウの大群にただただ圧倒されるばかりだった。
上空の雲でさえ吹き飛ぶ強風。
この日絶好調のラスティパラシュート。 群飛の正体はこのカゲロウでした。
それでも強風の間隙を縫って小ヤマメを釣り上げて行く。相変わらず空振りも多いしばらしもするが、釣ったらもちろんだがばらしても笑ってしまう。全くここの魚はへたくそな私の釣り方にもよく出てくれる。フックを振りきる瞬間でさえパーマークがはっきり見えて、それだけでうれしい。
陽射しと陰が入れ替わり立ち替わり。 こんなフラットな流れが続く。正にドライフライのためのっていう。
更に釣り進むとライズを見つけた。複数の魚が流れのたるみで交互に捕食しているようだ。ついばむようなライズであったり魚体を見せて飛び出したり。こいつはものにせねばっ!と気合いの一投に横から引ったくるように出たが空振り。二投目は同じ場所で違う魚が出たがこれも空振り。三投目の空振りで上空の枝にティペットは絡まり、また強風が吹き出した。完全におちょくられている。
その少しあとなんでもない足下で良型一匹。これでいいのか?(いいのだ!)
案外そんなもんです。
その後も魚の反応が途絶える事はなく、長時間のウェーディングでだんだん疲れて雑になってきた私の釣りに、それでも答えてくれるこの川の魚たちにだんだん申し訳なくさえ思えてきた。
しかし、この日といったらどうだろう? 先行者はなく、途中から人の入った気配もない。釣りが不可能な強風もあっけなく止んだかと思えば、カゲロウの大群が押し寄せてきたりする。そして、途切れないヤマメの気配。
まだ時間は早いが今日はこれくらいでいいかなぁとも思い始めてきた。ただ道路とは離れていて、エスケープするところが見つからない。で、またキャストするとまた小ヤマメが躍り出る。
ゴッと風が音を立てて吹き過ぎ、ずいぶん遠くまで川を遡ってきたような気がした。
こんな日もある。
遡った距離以上に長い帰り道。