各地に被害をもたらした梅雨前線は北へ去った。それでも大陸に位置する低気圧と太平洋高気圧の狭間で煮え切らない空模様が続く。
世間は三連休の中日の日曜日で、高速は朝から車が多い。まとわりつくような湿気と暑さを逃れて山へ向かう。他の車はどこへ向かっているのだろう?
私はJ山塊から流れ出る川を目指した。街の喧騒も高速の交通量とも無縁の渓へ。きっとそこは週末の避暑が目的の車すら入ってこない、私だけのカーティスクリークだ。
時速80Kmでのんびり北上する。焦る必要なんて全くない。今日の釣りは保証されているようなものだ。
ゴギを釣る。ゴギだけに五十匹釣ろう。
あっ、軽に抜かれた。くそっ!!
今年の夏の休暇はゴギ三昧。お付き合いありがとうございます。
インターチェンジを下りると高速道路上のあの車の多さのがウソのような、こんなへんぴな山奥に実は極上の流れがあるのだ。
ぎゅうぎゅう詰めの河原でキャンプしたり、暑いだけの海岸で寝そべってる連中の気が知れないね。
午前九時に川に着いた。朝から曇りで陽も陰ったままだ。やんわりと風も吹き、年券代だけだと申し訳ないって思ってしまうくらいの快適な空間。
もちろん釣りも大いに期待している。ドライフライをがっぽり食う魚体が今から目に浮かぶ。

満を持しての一投目、反応なし。まぁ、そうすぐにはね。
二投目、沈黙。そりゃそうでしょ。
三投目、フライが付いていない! クモの巣に切られた。むむむっっ!!!
そうなのよ、そんなに安易だと逆にオモシロクナイ。これは決して負け惜しみではありません(!?)
水蒸気で乱反射する谷合い。街から1時間半でこの景色に出会える。
四投目は赤とんぼが引っ掛かってしまった。イトトンボがフォルスキャスト中のフライに食いついたことはあったが、赤とんぼは初めてだった。からんだティペットを外すとなんとか飛び立って行ったが。
しかしどういうことか? なんだかリズムに乗りきれていない。釣行そのものも少し間が空いたし、その間に私の想像以上に「夏」になっていたのだろうか。疲れもどこか抜けきれていない。
いやいや、だからこそ今日はこの川まで出掛けて来たのではないか!!
本日は半沈みのアントパターンで通した。
週末、ずっと部屋にいるとそれは休息というには余る時間だ。時間を持て余して逆にだれて疲れてしまう事もある。
休日もメリハリが肝心で、動く時は動き体を休める時は休める。その方が疲れもしっかりとれるような気がする。
それともうひとつ、「物理的な移動」が休日の大いなる要素になっているように思う。
大いなる「移動」はその距離に比例して休日の充実感に直結する。より遠くへ出掛ける事でより街の日常から離れられる。その街と山との距離(あるいは状況)のギャップが気持ちいいのだ。こんなにも普段と様子の違う場所で快適な時間を過ごしているんだと。これでイイ魚が釣れたらもう言うことない。

やはりこんな暑い季節に釣るのならゴギがイチバンだ。ようやく掛かったゴギは背中へのスレでそうとう引いた。まあこれでもいいんだけど、あと49匹? ちょっと無理ッぽい。
見上げる木々からもなにかチカラのモトになるようなものが降りてくる気がする。
古く苔むした護岸の下のコンクリートの更に下。えぐれている。
これはいますね、間違いなく。
えぐれの空間より少し下に水面がある。ドライフライを流せば浮いたままえぐれの中に入って行くだろう。早速キャスト、フライは狙い通りえぐれの中に入っていったが、当然こちらからは見えなくなった。と、えぐれの奥から水しぶきが飛び出した。
「来たっ!」
サイドに引っ張るように合わせたが空振り。残念。いや、まだまだ。
もう一度キャスト。今度はえぐれの手前にしか落とせなかった。えぐれが口を開けるその手前をアントが流れて行く。
(出るか? こらえきれずに出ちゃうか??)
そして・・・出ない・・出ない・・・出た!
小型ゴギ49匹分に十分値する一匹のゴギ。