二投目、川に降りて約三分で一匹目が来た。解禁からは何日かが経ったが、釣行初日でのファーストキャッチの最速記録だ。しかもドライフライで。水は冷たく水量は多い。だけど期待は高まる一方。
先週までの雪もすっかり姿を消していてでもその分遡行はきついが、とにかく釣りができるのだからと。
気温は暖かすぎず寒すぎず、春特有の強風もなりをひそめている。なんだかでき過ぎだなぁ。落とし穴がありそうだなぁ。
うわっ、手、でかっ!!
少し釣り上がり一つ目のえん堤を越えたところで一息。最初の一匹のあとは反応なし。でもすでに釣ってるから余裕だよ、と偏光メガネを外して首から垂らしたらそのまま足元に落ちた。いつの間にかグラスコードが外れていたのだ。
アッという間にえん堤下に消えたメガネをぼう然と見送ったあと、ハタと我に返りえん堤下に飛び降りた。ああでもいくらなんでも無理か。
ここに落ちたらいくらなんでも・・。
どうしても諦めきれないで、木の枝でえん堤下のプールを突っつき回していたら、なんと斜めに傾けた枝にメガネのツルが引っ掛かり、枝をつたってメガネが水面に水流で押し上げられた。しかしそれをそうと気づかず浮かび上がった異物にビビって枝ごとほうり投げてしまった。
だがここで伝家の宝刀、水中デジカメの出番となる。メガネが枝ごと落ちたあたりをやみくもに撮ったらなんと写っているじゃぁないですかっ!!
あったっ! こりゃぁ奇跡だ!!
ふと岸を見ると農作業のおじさんが手を休めてこっちを見ている。
「魚、取れたかね」と話しかけてきた。いやちょっと、別にヤスで突いてたんじゃないですよ。落としたメガネを取ろうとしてたんだよ。釣り方はフライフィッシングだからね。毛鉤を使うヤツよ。
しかしおじさんは「わかったわかった、黙っててやるよ」なんて言ってるようにニコニコと笑っている。ちょっとホント誤解せんでくださいな、もう。
二の腕まで水につけてようやく偏光メガネを回収し、じゃあ釣って見せようか、おじさん。
今日のツキを確信して自信のキャストは、しかし反応なし。いやいや、今日は調子いいんだから、ホントだよ(なんで必死になって弁解せにゃぁならんのじゃ!?)。
更に釣り上がる。この先は去年も魚影が濃かった区間だが、そこを目前にして言葉を失った。
「宅地造成でもしたんか?」と思ってしまうくらいに真っ平らだった。
(お、おわっちょる・・・。)
偏光メガネはなんとか回収に成功したが、削られた川筋はどうすることも出来ない。この川は何年かの周期でこういったことをするらしいが(葦を取り払ったり川底を平らにしたり)、何か間違った思い込みがありませんか?
ここにも落とし穴が。釣りにならん。
やる気なくロッドを振っていると土手にまた地元のおじさんが現れた。さっきとは別の人だがなんかみんなおんなじように見える。
おじさんの期待の目に答えてあげたいが、この川のざまじゃあ釣るのは無理だよ。でも何だか知らんが熱い視線を感じる。シカトするようにこの区間を飛ばしていくのもあんまりのような気がして、カタチだけキャスティングをして見せた。とは言え川はこんなだし、釣り手もヤル気はないしで、釣れる訳がない。
ふと土手を見るとおじさんはすたすたと畑に戻って行った。背中が「へたくそ」と言っているようだった。
だからね、そうじゃないのよ。誤解せんでくださいってば。
彼方の源流の山の雪も溶けている。
更に上流へ。日照は絶えず風も穏やかで虫も飛び始めた。川幅は次第に狭まってきて、半年ぶりの川歩きにかなりバテてきた頃、予想だにしなかった流れで水しぶきが上がった。ロッドを高くかかげると頭上の枝に当たる。低い姿勢で後ずさりしながらラインをたぐり、寄せてきたサカナは金色に輝いて見えた。
「よっしゃぁ! どうよ、このサカナ」とあたりを見回すが、あれあれ? こんな時に限ってギャラリーが誰もおらんのよね。
いずれにしてもスタートとしては申し分なし。