中国地方全域晴れマーク、ようやく毛鉤釣り師も元気になれる気圧配置と気温になってきました。
「今日はええで」とK氏は袖をまくり川面を凝視する。川の魚達はK氏の視線にただならぬ気配を感じ、岩陰に身を隠し息(エラ)をひそめる。
かくして3月下旬、最高気温は4月中旬並と予想されたこの日、期待過度の釣り師K氏とY氏と私と迷惑顔の渓魚との静かなる戦いの幕は切って落とされた。
果たして・・・?
梅のつぼみもほころび、釣り人の顔もゆるんでにやける季節。
朝のうちは放射冷却でかなり冷え込んだが、昼前には汗ばむ陽気になり、ハッチとライズを待つばかりとなった。
ところが水温は期待するほどには上がってこず、業を煮やしたK氏は下流側から釣り上がり始めた。ウェーダーを通して感じる水温は渓魚の活性を感じさせず、逆に肌に水の冷たさを感じたK氏はウェーダーのピンホールの存在を確信する。
K氏はなげいた。こんなにいい天気で風もなく、なのに川の神様は冷たい、と。
里の春は淡い色合いで始まる。
代わってY氏のほうは余裕でK氏の後ろ姿を見ている。それもそのはず、彼はついせんだって尺にわずかに届かないヤマメを釣り上げたばかりで、今日はその余韻にひたりながらの釣行なのだ。
「別に釣りに行かんでもいいんじゃないんか?」と言うK氏に
「気になるサカナがおるんじゃ」とY氏。
釣り師とはあくまで欲深きモノのようだ。

この川のすぐ近くに住んでいるフライマンが様子を見にやってきた。彼にとってはこの川は庭だ。庭と言うか、自宅に作った日本庭園だ(←よくわからん例えだ)。やはり今日は水は冷たく、この川の一番良い時期にはもう一週間早いみたいで、ここ何日か水生昆虫の羽化は見られてもサカナが上ずってこないでいるらしい。
K氏を見守る余裕のY氏。彼はいつも先行逃げ切り型だ。
Y氏の泣き尺。きっと腹ん中じゃぁ笑ってるって。(写真提供 Y氏) ↑グロテスクなものが苦手な人はクリックしないでください!
ある区間で爆発的なマエグロヒメフタオカゲロウのハッチに遭遇した。飛翔する個体もさることながら、岸辺に流れ着いたスピナーの集合体が圧巻だった。
かと言ってそれに呼応してライズがあるかと言えば、ない。ドライフライに反応があるかと言えば、ない。
次々と目の前に現れる好ポイントで全くの無反応。もはや打つ手なしと思われた。ひとりで釣行するよりも竿を振る回数は少ないはずなのに・・・、やっぱり釣れない釣りは倍疲れる。
多分私の釣りシーンは初めての掲載ですね。
(写真提供 K氏)
いったん別れた地元のフライマンがまた様子を見にやって来た。なんと彼は別の区間で40匹からのヤマメを釣っていた。呆気にとられる我々を尻目に彼は
「この川ってこうなんですよ」とさらっと言い放った。短い流程でかなり高度を上げるこの川はその標高差からか、区間でのハッチやサカナの活性に同じ時間帯でもかなりのギャップが生じるようだ。

いつもなら生き馬の目を抜く勢いのK氏にして、この状況だった。それに追い討ちをかけるように、K氏も寄る年波に勝てず体力の衰えを否定できないようで、すでに疲れを隠す気力すら失せているように感じられた。
K氏は弱り目にたたり目と言った風で空を仰いだ。その目にじわっと来たのは悔し涙かそれとも花粉のアレルギーだったのか?
いくら疲れていても体は勝手に竿を振ってしまう。釣り師の性(さが)だ。