「わしらはこっから下流をやるから」と餌釣り師のおじさん達。
まあ、こっちが先にここから入ろうとしていたんだからそりゃ当然でしょう。でもさばさばして気分良く話の出来る人だったので、少し話をした。今日はすでに何匹か釣っているようだ。
「解禁日には40匹釣ったんじゃがねぇ」
ん? それは余計。別に聞きたくなかった。ただの自慢か?
しかし今日は寒い。よっぽど解禁日っぽいこの日、陽射しはなく水は多くそして冷たい。早期の釣りはせめて天候にだけは恵まれたいのだが、なかなか思うようには行かないものです。
活性が低い時にムリヤリ引きずりだされたヤマメはどこか迷惑顔。
厚く太い流れと化した里川は、歩くだけでヘトヘトになる。人間がこうなんだから、水中の魚は水の圧力をもろに受けて、そりゃぁ虫を食べてる場合じゃないのかも知れない。
きっとそのせいで(?)私の手を変え品を替えのフライには見向きもしない。
時折陽が射すと、思い出したようにカゲロウがハッチする。ただライズはない。私はニンフを流せばインジケーターに反応があり、ドライに替えればウンともスンとも言わずで、ストレスばかりが増幅して行く。
春のシンボルのネコヤナギも今日は寒そう。
不意にフェザントテイルを引ったくって行ったのは金色のアマゴだった。
例え放流されたものであっても、その時にこんな色はしていまい。短い時間でもこの川で成長するうちにこんな色になったのだと思えば、この川で釣ったという実感が強く湧く。

ほどなくして河川工事の区間が現れた。車のところまで帰ると、餌釣りのおじさんがクーラーボックスをぽんぽん叩いて笑っている。釣れましたか、そりゃよござんした。こっちも釣れましたよ、一匹ね。

「もっと下の区間が去年工事が済んで落ち着いとるからフライやるにゃええよ」と教えてくれた。
ああ、そうなの? そういうの早く言ってよ。自分の釣りの自慢はいいからさ。そうかそうか。
この川特有の金色の個体。
車で下りながら川の様子を見てみたが、どうにも良さそうな区間はない。
(ナンダ、ガセか?) そうそう、人なんて信用ならんものよ。真に受けた自分がバカなのさ、と自虐的になっていたら、ふと荒れた葦原の中洲が目にとまった。
「・・・」なんか、そう、そうだな。上流のあれだけの増水の水量がここにはない。ないわけはないのだ。こっちが下流なんだから。
川に降りてみた。どうも葦の原っぱの中洲の中を毛細血管のように川の水が流れているようだ。ただ、こんな葦の中の流れじゃ釣りにはならない。あのオッサンめー。やっぱりガセじゃないか。
ん? いや違うか。音がする。葦原の中を流れる音ではない。他に流れがある。
私は葦をかき分けかき分け進んだ。乾いた葦がパキパキ折れて小気味よい感触がウェーダーを通して伝わってくる。穴開けんなよ。
葦原の中を縫うように流れる。 ところがいきなり葦が途切れ、こんな流れが現れる。
突然葦原の向こうに絶好の流れが現れた。
最初っからそう思っていたのよ。あの餌釣りのおじさん、品が良くってね。ウソのつけない人柄が顔に出てました事よ。ありがとう(私はこういう人格です)。
まあ、そうは言ってもここで釣れんかったらやっぱりそれはガセといっしょよ。
ウデ? いやいや、情報戦だから、釣りは。
それにしてもややこしい流れになったもんだ。でもまあこれで魚がしっかり残るんなら、それはそれでいいんだけど。
情報はガセではありませんでした。