このネットをナンと心得る〜っ!!(早よ入れっ!)
左の巻き返し、流れのすき間からゆるりとゴギが顔を出す。
ロッドをあおるともそ〜っと重たい手応えが伝わってくる。黄色みがかった斑点が寄せてくる手前で見えている。このゴギはなぜゴギなのだろう・・・、などと訳のわからない余計なことを考えていたらぽろっとバレた。
しかし、心配無用。もう何匹バラしたかわからない。この魚影の濃さはかなりのモノだ(そっちじゃないほうがシンパイだぁ〜)
一年振りのR君との釣り。今回ジンクスは? ヒッートッ! 今度はバラさん〜。
そんな高望みはするつもりもなく、ちょっと魚の顔が見れたらそれで十分という感覚でこの谷にやってきた。
朝のうちは雨はあがらず、霧雨が続いていた。
カッパのフードからの視界は狭く、窮屈な条件で釣りを続けた。
この日同行のR君はまずまずのペースでゴギを掛けていた。僕は雨の中での釣りは苦手なのだ。
しかしほどなくして雨は上がった。ウソのように雲が切れて晴れ間が広がっていく。
一気に川筋のゴギの気配が沸き上がってくるようだった。
僕の釣り人生で最後に釣るのはゴギにしたいなぁ。
僕の流したあとから来ているR君が、良型のゴギを掛けた。僕が抜かしたポイントで、だ。
かなり悔しいが、抜かしたのは僕の実力だ。気を取り直して前方へ向かうと、これまた絶好の小プールが現れた。R君はいましがたのゴギを撮影中で、まだ上がってくる様子はない。
しめしめ、今のうちにエエのを釣ったるわい。焦り気味の一投は、期待外れのチビのアタックで終わってしまった・・・。むむむ、マスマス焦る〜。
毎年恒例のR君との釣りは、去年が二回、今年はこの日が初めてだ。そして去年の二回はかなりの釣果を上げている。
彼との釣りは「間」がいいのだ。僕のジンクスなのかと言えば、どうだろうか。しかし、期待はしっかりしている。
頼んますよ、R君。

雨上がりの水滴が新緑を鮮やかに輝かすフィルターとなって眩しい。さらにこれまた雨に洗われて澄んだ空気が相乗効果。
ずっと先までも見えちゃう気がする。今日だけ視力が2.5になっちゃったかしら。

小さな渓でも、魚を育むチカラは結構大きなモンですわい。陽射しと気温の上昇が、ゴギをも上ずらせてしまうようで、ここぞという好ポイントからは間違いなくゴギが出てくる。
あとは、サイズだな。
生まれたての光と緑と水。
「次が最後」と、またロッドを振る。 それ、すくえ、はいれ、と、届かん
(写真提供 R君)
何度かの掛けたバレたを繰り返し、いつの間にやら昼を回った。
渓相は大きくは変わらず、魚影もサイズも最初からの延長線上のままだ。この川はあとどれくらい釣りが出来るのだろうか? 僕もR君もそんなに奥までは詰めたことはなかった。
木がかぶさってくる訳でも水量が減るでもなく、その先にはまた好ポイントが見えていた。それならとまたロッドを振る。で、更に上流へ行く訳だ。
なにか踏ん切りのつく一匹が釣れないと、どうにも終われそうもない気がした。
もはや僕もR君も初めて踏み入る谷だった。やはり水量も釣れるゴギのサイズも同じだ。木の枝もかぶさってくることはない。ただ、頭上にある太陽からの陽射しの角度が変化しているだけだった。
(まさか同じところをぐるぐる行ったり来たりしてるんじゃ??)
と、あり得ないことを考えてR君を見ると彼は必死でティペットを直している。
午後の渓の迷路にはまりこんだ僕と、ほかには目もくれず現実にはまりこんでいるR君。・・・、歳の差(?)

突如滝が現れた。もちろん僕等はその存在を知らない。
R君に滝の直下まで続けさせた。これで今日は納竿だな。次第に集中力を欠いていたR君は最後は木の枝にフライを引っ掛けて、滝の下で空を仰いだ。
あ〜・・・、い、言わない。
それが巻くのも不可能な滝なら素直にそうしただろう。
でもそうではなかった。割と楽に滝の横を登って行ける。
滝の上を・・・、見ないで帰る訳にはいかないだろう。僕が思うより先にR君は登り始めていた。
ここまででも決してジンクスを裏切る釣りではなかったが、僕は迷路にはまったままだった。すっきりしない。

滝の上にはすぐに絶好のプールがひとつ。これはもらったと、R君の第一投でゆらりと魚影がゆらめき、R君はロッドをあおる。が、あっさりバレた。
二投目、それは同じ魚だったのかも知れない。R君のロッドをしならせたゴギは、それでも彼の手中に収まることはなかった。
ちょっとぉ〜 釣った魚にはエサはやらないってこと??