スルリと水面のフライをかすめ取るような出方に、あわてて合わせるも間に合わず。
雨上がりのこの川はその水位こそ問題ないレベルだが、水中の渓魚たちにとってはいささか問題があるようだ。
何度目かのアタックにようやく掛けた一匹は、くちびるにぎりぎり紙一重のフッキングだった。
がっぽり食うのもなんなんだけど、これはかなり食いが浅いような、魚が神経質になっているような。
てこずりそうな予感がした。
新緑の走り、しかし空気はひんやりと。
そろそろ瀬に出た元気のいい魚をドライフライで釣りたい。
掛けてもバレてもわーきゃー言ってうるさいうるさい。
でも渓流のフライフィッシングはそれが楽しい。釣りに辛さはご遠慮願いたい。僕はそういう派なので、よく見える大きなパラシュートとかになんの疑いもなく食いついてくれる魚が大好きだ(みんなそうか!?)

良い感じの増水の渓は、まだ渓魚たちの生活の落ち着きを取り戻すまでには至っていないようだった。
何度かフッキングしてもバラすことを繰り返し、どうもかなり食い渋っているのがロッドから伝わってくる。
どうやら少し考えてみなきゃいけないようだ。
渓は枝葉がかぶさってなくてクモの巣もない。一番釣りやすい季節。
今まさに、の新緑の芽吹き。 食にあまり欲を持たないヤマメ様。
半沈みのパラシュートに替えてみた。
しかし、フライへのアタックそのものが少ないのだと気付くのにそう時間はかからなかった。
この日は気持ちもフライの重量もライトウェイトで行こうというノリになっていたので、この状況は確かにキビシイ。
それでも何度かはフライへの渋い攻撃があるから、もう少しこのまま行ってみようっていう気になる。しかし魚の数自体が減ってしまっているのだろうか? これは間違いないというような絶好のポイントで出てこない。五月連休で散々いじめられたということか?
大きなプールで良い思いをした経験があまりない。
ライズでもしれいればだが、そうでなければ水深のあるプールで漫然とドライフライを浮かべてもあまり良いことがあるように思えない。
じゃあニンフを結ぶのかと言えば、そうしない。そうして良い結果が出たことも、これまたないからだ。
タイミングもあればウデもあるでしょう。ま、結論を言えば、あまり深く考えてない、と言うことなのだが。
それは先述した「ライトウェイトのノリ」から離れられないからでもある。
やはりなんだかんだ言って、水は多め。
この日も目の前にプールが現れた。 結ぶのはエクステンドボディのニンフ。
それでもそこにプールはあった。
もちろん最初っからあるのだけれど、だからといって飛ばして行く訳にはいかない。
ドライフライをしつこいくらいに流すが反応はなかった。
そのときそのまま上流へ行くことがどうしても出来なかった。

ティペットを切り、フライボックスからニンフをつまみ出す。
ここだけはこの日のライトウェイトのリズムから脱却する決心がついた。
プールの底に居るヤマメは引きこもりタイプ??
岩盤沿いの流れの筋へニンフを投げ込んだ。マーカーがそこまで見えなくていいってくらいに見えている。
別に水中に引き込まれる気配はない。やっぱりか、流す前から頭のどこかでプールはダメだっていう思いがあった。
そして・・、ゆっくり沈むマーカーをぼんやり見ていた。

渓に着いたときは厚い雲におおわれて、薄暗いほどだったが、帰る頃にはすっきり晴れ渡っていた。
山の至る所から湧き出るような新緑が、不意に目に飛び込んでくる。
釣りをしているときには気がつかない景色に、竿を収めた途端に気がつく。

「せっかくなんだし、もったいないから早く気付きなさい」
ドライだニンフだと躍起になっている時の自分に、そう言ったりして。
新緑に包まれ、春が薫る。昼寝したいわ〜。