僕の出掛ける川は、今時期になるとかなり標高の高い山に囲まれたエリアになってくる。
とはいえ、ここいらの山の事だから、それほどの高さではない。それでも1000mを越える山々が連なるその懐には、しっかり水をたたえる渓流が僕を待っている(川はいつでも。魚は?)

この日の川筋は1000mもの標高はないだろうけど、両脇と正面にはそれクラスの山が鎮座ましましている。
その広葉樹の斜面は実に頼もしい。
ぬお〜、山の木は切らなくていいから、川の木をなんとかしてくださいな〜。
梅雨入りとか言いながら、アメダスでみるとこの辺りはそれほど雨は降っていない。果たして、水量は文句なしのちょい増水(ちょいワルではない)。
朝のうちの谷あいにこもる湿気に、偏光グラスを汗で曇らせながらキャスティングを繰り返す。
1時間で、並べたら25cmくらいにはなりそうなヤマメが3,4匹(平均7cm??)。訪れるのが困難な奥地は、逆に訪れる釣り人が多いということか。

しかしこの日の川は川底に砂がない。標高の高い所の川で、広葉樹に埋め尽くされた山に囲まれた川なら、砂の堆積はちょっとイメージ的に、なさそうな気がする。
いわゆる山岳渓流に近いイメージなのだが、この川はその少しトーンダウン系(渓?)ってとこだろうか。
周りの山の山頂もすぐ近く。
源流に近いあたりまで来ている。
フライフィッシングで源流指向というのはどうだろう? 
エリア的に見ても、フライのシステムではかなりしんどいのは想像がつく。季節が進むにつれ上流へと目が行くのは自然だが、見過ごしがちな中流域に思わぬ大物の可能性は十分に残されているのも知っている。
それでも心情的に上流へと気持ちが傾くのは、冷静に釣果を統計だてて分析・推測してのことではない。そんな淡泊な考え方では推し量れない、もっと上流へ、奥へと駆り立てるモノがあるのだ。
ま、単純にそういうトコ行けば釣れるっていう思い込みが抜けきれない・・・とも言えるかな?
「おい、のけーやー」
「何言いよるん、こっちが先行しとるんで〜」
本日の功労賞。こういうパターンに帰っていくのね〜。
涼を求めて上流へ向かう、というのもある。実際には日の当たる所は街とそうは変わらないが、木陰で涼風でも吹こうものなら、天国だ。
頭の上まで緑に囲まれて、体の毒を洗い流してくれるような風。
そりゃ行くわな、上流へ。

不意に良型が飛び出した。
小さいのばっかりに慣れていたからまともにロッドが曲がって驚いた。朝の湿気もようやく消え去り、涼風と木漏れ日が交互にやってくる。ヤマメも釣れて、いよいよこの川の本領発揮か。
高地にしてエサは豊富。ならば太りまする。
体感温度は普通に暑いのだが、この日の川が標高の高い場所であるという認識が、ただ暑いというのとは少し違う感覚をもたらしている。
僕の足の裏が着く地面が、すでに天空の高地なのだという感覚は、少しではあっても、普段の暑さとは違う気分にさせてくれる。
こういうのがあるから、源流へ向かうことをやめられない。道中の距離の長さも、ちょっと怖いひとけのなさも乗り越えて・・・。
も、もう執念じゃあ〜。釣り人の滝登り〜。
かろうじてまだ釣りの可能な規模の流れが続き、良型を何匹か仕留めて更にその先へ。
川幅が狭まるのとは逆に少しずつサイズアップしてきている。
まるで釣り人に追われた良型のヤマメが、上流へと逃れていっているようだ。

この季節、少しでも標高の高い流域へ移動するヤマメと、それを追う僕。
週末ごとの渓流の逃亡・追跡劇は徐々に狭まる川幅と、張り巡らされるクモの巣に、追う側の僕の士気だけが一方的に阻まれていく。
上流へ逃れるヤマメはその先に楽園があると信じている(!?)。
かなりの落差の滝を越えると、ぱったり魚影がなくなってしまった。
魚止めの滝だったのかなぁ〜。もはや流れは薮々で、ロッドを振れる状況ではない。提灯釣りで流れの溜まりに落としても反応はない。

空へまでも向かわんとするこの日の釣りもどうやらここまでのようだ。
僕の追い切れなかったヤマメたちは滝を越えこの薮の更に先へと登っていったのだろうか。その川筋は緑に埋もれて見えなくなっていた。
こんなところまで釣り上がると、車まで戻るのも大変です。