結論を言うと、ボウズ、である。

解禁から十日ちょっとが過ぎ、ほぼまんべんなく渓流に入る人は一度は川へ足を運んだ頃だろうか?
解禁初期に集中するのは容易く想像でき、すると川の具合もどうなのか、見当がつく。
ということは、今時期が実は一番釣りに条件が悪いのでは??
気象条件ではない、人為的な事情で釣りが難しくなる。
読むのは川の条件よりも入渓者の数がどうか?だ。

そんな二週目の週末、また川へ出掛けた。
春まだ浅い畦道を行く。
「!」
先週と同じインターチェンジに降りたのに、全く景色が違う。雪がなくなっている。
確かに暖かかったよなぁ、今週は。しかしこんなに変わるかねぇ、一週間で・・・。

暖かい・・・、というよりも、あ、暑い。
ようけ着過ぎじゃ。毎回こうだ。
もちろん場所によっては寒いし、一日違うと大違いということもある。
しかしこの日はTシャツの上にフリース一枚だけで十分だった。
やっぱりなんだかんだ言って春なんだなぁ。

最初に入った里川の流れには、柔らかく陽光が降り注いでいた。こんな穏やかな流れでライズでもしていたら・・・、してないか。
川底の石の具合も文句なしの里の流れ。
虫もいまひとつ飛ばない。水温は決して冷たすぎるとは思わないし、当然ユキシロが流れ込んでいる様子もない。
そして、目につくのは真新しい足跡・踏み跡・・だ。こりゃそーとー入っとるな〜。
でもそうは言っても魚が一匹残らず釣り切られてしまってるなんてことは考えられない。一匹くらいは残ってるんぢゃないの?
しかし、その考えはアマかった。マーカーを引っ張り込み、心地よい手応えを伝える主は前回釣ったヤマメを凌ぐオイカワだった。
時折激しい白泡の立つ区間も。 川にはそこに密着した土地の生活がある。
前回効果を発したタングステンビーズヘッドのニンフは今回もその威力を発揮した。
少なくとも今の虫も飛ばない時期なら、魚さえそこにいれば間違いなく反応してくる。ニンフパターンにこれほど自信を持てるのも珍しい。
やはりこの時期は、元気の出ていない魚にしっかりフライを見せるということが重要なのだろう。
ただ、今日に限って言えば、反応してくる魚種がちょっと違ったようだ。
そしてもうひとつ、午後の風に乗ってマズいことがやってきた。
やたらくしゃみが出て、止まらなくなった。
釣れないことも加わってイライラし、道の上から声をかけてきた人(釣り人? 地元の人?)にも、気が付かないふりをして、がむしゃらにロッドを振り続けた。
あまりのくしゃみに、ハッと我に返り周囲を見回すと、なんと杉木立のど真ん中に居るではないか。
慌てて鼻を塞いで脱出(お、遅いか)
しかし、くしゃみの発作でかなり体力を消耗してしまった。
最後にはこんな細流にまでも竿を出したのだが・・。
離れたところから人が見ている。
(また野次馬かぁ)と、無視しようとしたらその人は双眼鏡を取り出した。どうやら漁協の人で、見回りに来たらしい。僕は腕章を見えるような角度に体の向きを変えた。
「!!」
僕はすぐその人を追った。さんざん場所変えして、いい加減帰ろうかと思っていた。最後に漁協の人に ここなら釣れる、というポイントを教えてもらおう。
その人に追いつくと隣にはさきほど僕が無視した人が立っていた。僕は、バツが悪くそのまま声を掛けずにすごすごと通り過ぎた。
風が花粉や細かな砂を飛ばしてくるのだろうか、手や顔だけでなくロッドやラインまでかさかさになってきた。
相変わらず春のうららかな空なのに、気分は晴れやかとはいかない。気持ちに余裕がないとすべてにおいて悪循環だ。
きっと一匹でも釣れていたら、さっきの人を無視することもしなかったろう。
勝手な生き物ですな、釣り人は(僕だけ??)

(今日はもう切り上げ時だ)
多分自分が言っている。連れがいたらその連れもそう言うだろう。
虫も相変わらず単発的にしか飛ばず、僕と同じなのか釣り師らしい車が行ったり来たりしている。
僕は沈黙を守る水面をぼんやりながめて、(次が最後)と思いながらまたフライを投じた。
釣れない釣りは疲れる。不変的な法則です。