土曜日、曇り。 日曜日、雨。
土曜日の仕事を日曜日へ。
で、土曜日、休み。日曜日、仕事。
それは即ち、土曜日に釣り、と言うことだ。いつの間にか四月になっている。しかし山はせんだっての寒波再来で、解禁当初よっかよっぽど寒い。
天気予報の晴れマークもうそっぱちじゃ!
どんより天気は偏光グラス越しだとまるで夜みたいだ(そ、そこまでじゃないか?)

北部のT湖にそそぐいくつかの川のうちのひとつがこの日の釣行先だ。
山の斜面にはまだたっぷりと雪がある。なんか間違えたのかなぁ・・。
いや、実際に来てみないとわからないのだし、そうしないと納得できまい。あとは僕の腕(!?)ですな。
で〜っ、以前はこんな階段なかったゾ〜っ!!
八時半には川に着いてしまった。
日差しはもちろんないが、魚の気配もない。解禁の時よりもよっぽど水は冷たく、今年初めてウェーディングシューズ越しの水の冷たさに足が痛くなってきた。
決してこの川は間違いではないと思うのだが、これほどのきびしい条件での釣りになるとは思わなかった。
それでも今日の釣りを、この川の景色をオーバーラップさせてイメージして来たのだから、どうしてもここで一匹釣りたい。

柔らかく日が差してきた。
それだけでいくらか元気になる。ティペットを結び替え、フライを付け替える。そしてしっかりポイントを見極め、キャスト。
あ、木の枝に引っ掛かった!!
斜面には雪が。四月の渓とは思えない。
フライフィッシングをするからにはフライで釣らないと気が済まない。これは、まあ問題なくほとんどのフライマンの共通認識だろう。
ところが同じフライフィッシングでも、使うフライでかなり雰囲気が変わる。
ドライ中心の釣りであっても、シーズン初期にはニンフの出番が多くなる。そうなると、ニンフのつもりの釣りでニンフでは釣れず、ドライでやっと釣れたとしよう。するとその日の釣りは狙いの釣りが出来ず不完全燃焼ということになる。
ニンフのつもりならニンフで釣れないと。この川での釣りならこの川で釣れないと。それが僕のこだわりなのだが、どうやらこの日はそれを捨てざるを得ないようだった。
スイミングニンフ、撮影成功。
・・・水たまりで・・。
凍ってます。アマゴの氷穴釣りすっか??
二時間粘って一匹バラしでこの川に見切りをつけた。
なんとかこの川でと思ったが、同じT湖に注ぐ別の川にあてがあった。(あそこなら)と、そう思い始めたら居ても経ってもいられなくなったのだ。
何年ぶりになるだろう、その川へ釣りに行くのは。その川は僕が最後に釣りに行ったあと、「封印」した川なのだ。
とても良い川で、ストレスのないアマゴがテンポよく釣れて、釣りの楽しさを初めて知った川だった。それがどんな理由で「封印」したのか、今では思い出せない。
T湖に足を延ばそうと思った時から意識していたその川へ、行こうと思った。
うす雲越しに太陽がぼんやり顔を出す。
それが余計に寒々しい。
変わってない。以前と一緒だ。僕は以前から間違いなく歳を取りましたが。
久しぶりのその川は以前通っていた時よりも川自体が小さく見える。 何年ぶりかで故郷の町や母校とかを訪ねたら驚くほど小さく見える。それと同じだろうか(違うか?)
少し緊張しながらフライを投じていくが、反応はない。ひとつ岩をよじ登り越えると、見覚えのあるポイントが見えてくる。するとそこで釣ったアマゴの姿までもが思い出される。
流れもポイントも変わっていない。ただひとつ、魚の気配がないことを除いて。青藻が増えているのも気にかかる。やはり数年の隔たりはなにかしらの変化をもたらしているようだ。
なにかが目の前をよぎった。
カゲロウだ。ハッチしたてのようだ。
見ると浅瀬にいくつかマエグロヒメフタオカゲロウのダンがいる。
さらに見続けていると、水中を泳ぐニンフや、石の上にはいずり上がろうとしているニンフを見つけた。
こうなると釣りそっちのけでファインダーをのぞくことになる。
一度ハッチしだしたら、そこでもここでも。

そして僕はあることに気がついた。
マエグロヒメフタオはダンとスピナーでかなり雰囲気が変わる。
こんなふうにカゲロウのハッチにレンズを向けて、ロッドを置いてしまっているというのは、つまりそういうことだ。
自分でそうなのだと、気持ちのどこかで思っている。
結局はっきりした日差しは出てこずじまいだった。
春になりそこないのいちにち。カゲロウに例えるなら、ハッチに失敗したスティルボーンといったところか。

思い返すとこの川でこんな天気は経験がなかった。いつも晴れていていつもたくさん魚がいた。
それでもこの川を封印したのは、やはり魚が釣れなくなったからなのだろう。
青藻と川底の砂がそう思わせ、しかしカゲロウには住みやすい川になったようだ。
遠くからの川のたたずまいも変わることはない。