R君得意の技は、名付けてスネークキャスト。
狙われた魚はさしずめ蛇に睨まれたカエルか(!?)
狙いはふたりで五十匹。この日の釣りの意気込みはいつものソロフィッシングとは違う。
毎年恒例のR君との釣りは、満を持しての西中国山地最深部の川へ。すでにテレストリアルパターンさえ有効な陽気の週末だった。
まずはR君がアマゴをキャッチ。僕はアマゴらしき魚をバラし。引き続きR君はアマゴを。僕は将来アマゴになるであろう魚類をキャッチ。
今年は忙殺されて釣行回数が控えめなR君は、それ故その集中力たるや尋常ではない。きょろきょろよそ見しーしーロッドを振る僕は、最初っから水を開けられた。
大きな淵を巻いてその上流へ出た。
ここからが本日のメインストリーム。完全なゴギ圏となる。
フライを木のかぶさるポイントの手前に落とすと横の岩陰からひょろひょろとゴギさんがおいでなさいました。
その動きは予想以上に遅く、僕の合わせはほんのわずかに早かった。
というか、食いつく前にあおってしまった。気にせず次を狙う。
流れが渦を巻いて淀んでいるポイントを攻めていると後ろで声がした。
R君がいましがた僕が失敗したポイントでゴギを釣っていた。
むむむ・・・。
今年本気でゴギ狙いは初めて。ゴギさんこんにちは。
2、3匹バラしてようやく初ゴギをキャッチした。しかし、R君の一匹にはかなわない。しかもそれは僕が釣る予定だった魚だ(←勝手な)。
こうなると僕がいくら連続してチビゴギを釣っても、後ろのR君がもっと良い型を釣りそうで気になって仕方がない。
と、出会い頭にゴギが出た。ぐいぐいロッドを持っていく。こいつはいい。これならR君に負けない。
「落ち着いて。ゆっくりゆっくり」
後ろからR君が声をかけてきた。なにを言っているか。このゴギを見たらそんなこと言ってられなくなるゾ。と思っていたら、ふっとロッドが軽くなった。
「ゴギ釣りはフットワークですよ」と軽やかなステップを踏むR君。
どうもこの日の釣りは僕に分がない。ここらで逆転の一匹を掛けたい。
前へ出たR君がチビゴギを掛けた。気づかないふりはしない。即座に先行を変わる。一匹は一匹だ。
速攻で僕が次のたまりで掛けたゴギはR君のを上回る小ささだった・・・。

二年ぶりに訪れたこの谷は、前回と変わらずチビゴギが飽きるほど釣れる。これだけ魚影が濃いと、個々の魚は大きくなれない感じがする。
そして釣り人の集中力も次第に散漫になっていくのも無理からぬ話だ。
一匹を釣る集中力はいつも同じではない。
だんだんお疲れモードのキャスティングになってきました。 僕にもようやく良型がヒット!
(写真提供 R君)
解禁当初とか、新鮮な面持ちで川へ向かうとき、釣り人は釣果に対して謙虚になるものだ。
ヤマメの顔さえ見れればとか一匹釣れさえすればとか。それがその後何回か釣行を重ねて行くにつれ、その謙虚さはだんだんどっかへ行ってしまう。より多くを求めて西の渓へ東の谷へと奔走することになるのである。
入渓からゴギの気配の絶え間ないこの谷では、はなっから謙虚さなんて存在していなかった。そしてここでもより多くを果たした釣り人は次の欲を求め始めた。
もういい加減チビゴギはいい。おっきいのはおらんのか、と。
ザッと風が吹いた。青葉が飛び散り水面にはらはらと舞い落ちる。
僕の投じたフライに覆いかぶさってきた魚は明らかに今までのチビとは違った。
ゆっくり水面に浮上してきた魚体には鮮やかな朱点が散りばめられていた。
「ゴギでは負けたがアマゴで勝ったな」とR君に先を譲り僕はアマゴの写真を撮り始めた。
数分後、R君は僕のアマゴより一回り大きいアマゴの入ったネットを差し出して来た。
釣り人とはあくまで欲深い者のようだ・・・。
あちゃー、おまえはもうええっちゅーんじゃ。