目の前をツバメがかすめ飛んでいった。超低空飛行で水面スレスレを滑空していく。
果たして水面下のヤマメ達はこの低空飛行を警戒するのだろうか?
ツバメがヤマメを食べるってのは聞いたことがないが、ヤマメに上空の鳥が襲ってくるかどうかはわかるまい。
ということで、僕はそのポイントをあきらめ、先へ進んだ。
無風の午前中。風が出てくる前にいくらか釣っておきたい。
今日も昼あたりからあの強風が吹くに違いないだろうから。
サクラの季節にはお馴染のマエグロが現れる。
陽が射してきた。風もなく穏やかで、鳥もしきりに鳴き出した。
なんていう鳥だろう? 鳴き声だけではわからない。やたら派手に鳴いている。たまにウグイスも鳴くがこれはさすがにそれとわかる。頭上ではキツツキ科の鳥がこつこつと木を突いている。
なにやら今日は川筋がやたらと賑やかである。でもまだ虫も飛ばない時間帯だから水も冷たく、さっきのツバメのポイントからしばらく釣り上がったが、フライへの反応は全くない。
日が射すだけで、川の中まで活性が上がる気がする。
また真横の雑木林でけたたましいくらいに鳥が鳴き出した。さえずりなんていうお上品なものではない。
ふと思ったが、鳥の羽根を使って毛鉤を巻くことをしているわりに、毛鉤の材料としての鳥の名前は周知していても、すぐ横で鳴いている鳥の名前がわからない。
鳴き声を知っている鳥と言えばカラスとスズメとウグイスとトンビとカッコウくらいかなあ。
なんだかずいぶんな話だなあと思わないでもない。トリさんゴメンナサイ。

それにしてもこの時期にしてはまだドライフライには時間帯が早過ぎるのか。突っついてくる気配もない。そもそも家を早く出たのは釣りの戦術を考えてではなく、ETCの割引の時間帯の都合でしかないのだが。
ゆっくり竿を振ったり写真を撮ったりしながら陽が登っていくのを待つ。
時間が経てば少しは水温は上がるしカゲロウのハッチも始まるだろうが、強風が吹き始めるリスクもある。
風が吹くと鳥も鳴かなくなるし雲が流されてきて陽射しをさえぎるので、うららかな春なんて雰囲気は吹き飛んでしまう。

先週あれだけいた黒いカディスもこの日はちらちらとしか見かけない。一週間で水辺の水生昆虫の勢力図はこうも変化するものなのか。
水際を注意深く見ていくと、もう見飽きた(失礼)マエグロがぽつりぽつりといる。羽化したばかりの小型のトゲトビイロカゲロウが何匹も岸辺にはい上がろうとしていた。
そろそろ少しづつカゲロウが動き始めてきたようだ。
フライを前の日に巻いてきたサスペンドパターンに付け替えた。
虫の様子を探るには、上ではなく下を見る。
ようやく一匹目を手にしたのはもう昼が近くなった頃だった。
折りたたみの携帯電話よりは少しは大きいヤマメに一安心(?)。
だんだん釣れたりバラしたりが続くようになってきた。
釣れ始めると渓畔林の鳥の鳴き声も単なるBGMでしかない。
今までの区間にはヤマメはいなかったのか、いてもフライに出ないだけだったのか。まるで別の川に来たみたいに投げるごとに反応がある。
しかしキャッチできるのは相変わらず携帯電話サイズでしかない。
折りたたみを開くと長さでは負けてしまうヤマメ。
オオクマのダン。羽化失敗でウィングが撚れてしまっている。 半沈みのパラシュート。これを使ってもフッキング出来ないのは誰のせい?
反応が良くなってきたとは言え、やはり好ポイントで全く出ないところもある。
どうも反応のあるポイントは竿抜けではないのかと思われた。
確かにプールのような深さのある場所にはまずヤマメが出てくることはなく、それは釣り切られたことを意味しているようだった。
竿抜けと時間の経過による活性化がこの区間で重なったようだ。

大岩の際の流れに沿うようにフライを流した。きっとこの岩の下はえぐれていて、ゴギでもいたら絶好の住み処にするんだろうなあ・・・。
ヌルリ、ゴギが出た。
ゴギは流れに入り込み、その流れに自重と泳ぎを加えてどんどん下っていく。
無理にラインをたぐらず一緒に下って行こうとすると、今度は上流へ走り出した。
僕はその抵抗に嬉しい悲鳴を上げた。
四月にゴギを釣ることはめったにない。
まだゴギの川へは出掛けないからだ。
想定外のゴギに気分を良くして、更に釣り上がった。魚の方も僕のフライを待ちきれないといったふうで、一投で必ず出てくる。
厚みのある文句なしの好ポイント。一投目で影が走った。空振り。
二投目を投じる直前、ライズした。
その上流50cmへキャスト。今度は掛かったがすぐに外れてしまった。外れたヤマメは僕をおちょくるように水面をぴょんぴょん跳ねた。
立ち位置を変えず少し上流へ三投目。フライの真下で魚影が交差した。
そのまま流して待つが出ない。ピックアップすると同時にヤマメが飛び出し、空中のフライにわずかに届かず流れに落ちた。

三連続失敗に少し焦ってきた僕は、一度フライとティペットをチェックし、フロータントを塗り直した。
そして慎重にキャスト。またヌルリと魚体が現れ、僕のフライは宙を舞った。
ウグイスが呆れて、ホーホケキョと鳴いた。
失敗続きでは気分良く終われない。
しつこく投げ続ける彼に幸アレ(^_^;