白っぽい玉のような卵塊を付けたストーンフライがやたら飛んでいる。オナシカワゲラの仲間のようだ。その中に混じってクロタニガワカゲロウやオオクママダラも目を引く。
小石の陰には小型のトビイロカゲロウが群れでしがみついている。
こんな複合羽化の状況下ではどれが本命でどれがマスキングハッチなのか判断がつかない。
と、そう思う間もなく目の前でライズが始まった。
僕の投じたフライは「本命」を射ていたようだった。
mGよ、うれしいのはわかるが、ふんぞり返るのはヤメナサイ(^_^;
四月になってからの花冷えで、妙に調子の狂う今年の釣り。
友人YとmGに誘われて出掛けたこの日の川は西中国山地の深部、決して穏やかな里川ではない場所だ。
そんな川で今年初めてライズを釣った。小さなアマゴでも初ライズおめでとうございますと自分誉め。

先行を代わりながら釣り上がるが、いたる所でライズしている。水生昆虫同様、魚もアマゴとゴギとハヤの混生している川だから、ライズの主は見極めないといけない。
小さなライズの主。食欲は大物に負けません。
まだ四月らしい陽気を期待できないのにこんな深部の渓を釣行先に選んだのは、良い情報を手にしたからにほかならない。
この日のアドバンテージはYにあった。彼は今年すでに泣き尺を手にしていた。
僕も初ライズを仕留めたとはいえ、チビアマゴ一匹で落ち着いている場合ではないようだった。
止まないライズに手を焼き、なかなか先に進めない。
Yの攻めるプールを大きく巻いてmGが更に上流へ向かった。
平坦に見えるが、かなり標高の高い上流部。
僕は釣りに行く時はどちらかというと出発が早いほうだ。
この日はmGに乗せていってもらったから彼のペースに合わせたが、待ち合わせ時刻が遅けりゃ途中の寄り道も長い。早め早めに動く僕にしてみたら、なんか全てが後手に回るみたいでどうかなあって思っていた。しかしそこはそれフライフィッシングなのだから、結果いちばん良い時間帯にいちばん良い区間で竿を出すことになった。それが群飛する水生昆虫と止まないライズというわけだ。
先行者の有無だけは運任せだが、この日はそれさえも味方につけることとなった。
アマゴの天敵は常に水の上に居る。 栗色の複眼がオオクマのダンの証。
Yの前に出たmGがしばらくしてなにか声を上げた。
僕は静かな谷あいに響くウグイスの声にぼんやりしていた。地形の関係か、この川筋は鳥の鳴き声がよく響いた。
このあたりは標高が高い分、春の訪れも遅れている。斜面の木も全く葉を付けておらず、山肌まで丸見えの斜面が季節の遅さを感じさせる。
そして僕は水際に屈みこんでいるmGにようやく気がついた。
なにをしているのか? いや、大体想像がつく。
いくら今年泣き尺を手にしていても、この日の釣りはこの日に決着をつけなければならない。
写真を撮るmGの肩越しに見えたのはミニカラフトマスみたいなアマゴだった。
「浅い流れでパラシュートで釣れました」・・・ふ、ふざけている。
あとから来たYも目を見開いている。散々寄り道をして釣り始めが遅れて、で、あっさりこんなのを釣るとは。
ひとしきり写真を撮ったmGは川原に座り込んでしまった。
すっかり気の抜けた顔を見ていると、もう今シーズンはこれ一匹で十分、と言っているようだ。
これで痩せていなかったら完璧過ぎるから
カットです( ̄^ ̄)凸
僕のアマゴは片手で十分支えられるのだけど。 余裕の釣り師には水仙がよく似合う(?)
しかし、mGの快進撃は昼を回っても止まらなかった。
どうぞどうぞとポイントを譲ってくれていても、何度かは先行するその度にまたまた良型のアマゴを釣ってしまうのだ。
間がいいというかなんというか。もはや一匹の大アマゴを釣った余裕が全てにおいて良い方に回転させているようだ。

滝のある所まで釣り上がり、一旦車へ戻って滝の上流へ移動した。
そこで僕は上流へ、Yは下流へ、そしてmGは車の中で昼寝を決め込んだ。
これも余裕である。
僕は次第に集中力を欠き、バラし空振りフライのロストを連発し、Yは夕暮れの迫る渓で警戒心の薄れたチビアマゴを釣り続けた。
mGは今までにないほどの安堵と充足感を得て、ひたすら眠り続けていた。
魚止めの滝ではない。この上には別のドラマが・・・。
mGよ、釣って食って寝て。殿様釣りじゃね(-_^;)