晴れれば放射冷却。北部の渓の朝は寒い。
しかしそれも朝だけのことで、時間の経過とともに太陽光が地表を遠慮なく熱し始める。
そしてまるで太陽光を受けた大地の熱エネルギーが渓を流れる水に伝わったかのように、ぽつりぽつりとライズが始まった。
僕は防寒用に着込んでいたレインジャケットを脱ぎ、ベストの背中に突っ込んだ。
たんぽぽも綿毛を飛ばす季節。川を流れたらライズするかも(^_^)
早速、目の前のライズにキャストした。ラインが水面を叩き、一発で沈黙。反省しきりで上流へ。
ライズのない流れだが間違いない一級ポイントが見えた。ひと通り流すが魚は出ず、足元まで流した時にバシャッと出た。
慌ててロッドをあおるが足元にたるんで浮いているラインがちょっと動いただけだ。反省しきりで上流へ。
強く陽の当たる流れは川底まではっきりと見えて、それは渓魚の活性を高まらせるのか、それとも警戒心をあおぐのか。
陽の当たる流れは俄然活性が高まってくる。
すぐ横でピシャッと小さなライズがあったが無視した。どうせチビアマゴだろうと思った。でもまてよ。ひょっとしたら・・・。やっぱり一度だけ流そうと思い、ライズのポイントへキャストしようとしたら後ろの木の枝に引っ掛かった。やっぱりな。
なんとなくリズムに乗り切れないまま流れを歩いていると、川土手で作業をしているおじいさんがいた。そのすぐ横には絶好のポイントがある。ライズはないが流す価値はある。おじいさん、動かんでよ。
作業するおじいさんの足元の流れにフライを落とす。「出る」と思った瞬間、出た。たくましい背中が弧を描いてフライにかぶさり、僕は万全のタイミングでロッドをあおった。しかしロッドに魚の質量はかかってこず、僕は「あ〜っ」と声を上げた。
横を見ると今の一連の出来事を一切関知せず、おじいさんは土手を上がっていった。
なっとらんの。ドラグがかかっとろうが。と、背中が言っている(^_^; 水中よりも地面よりも広い空間を独り占め。
この川も季節の例に漏れずウグイスの独唱が響き渡っていた。
ウグイスは特に水辺を好むのだろうか。釣りをしている時にやたらとすぐ近くの木からホーホケキョが聞こえる。やはり水辺は鳥類にとっても餌をとるのに都合がいいのだろう。カゲロウも食べるのかなあ。
"Bush Warbler" の別名を持ち、茂みの中から聞こえ続けるウグイスのさえずりをBGMに、ロッドを振った。
投げたフライが着水する直前にライズした。そのライズリングのど真ん中にフライは落ち、再びライズリングが広がった。
ようやく顔を見せた朱点鮮やかなライズの主。
入渓してから相当数のライズに出くわして、やっと一匹釣ることが出来た。朝の冷え込みも全く感じさせない強い陽射しは、もはや暑いと言っていい。これだけ強い陽射しだと、やはりアマゴは活動を鈍らせるだろうか。
そんな僕の心配は僕の後方の音で消し飛んだ。
今しがた僕がフライを流し、歩いた流れでライズしていた。むむむ、である。
上からダウンで流してみたが、反応なし。そうそうウマいハナシはありゃしない。
春でも黒いフライが有効なのはこいつのせいだ。
次のポイントを凝視する。この日はカゲロウよりもカワゲラが目立つ。ライズはしていないがアマゴが居ない訳がないポイントだ。
迷わず流心へキャスト。白いインジケーター部が泡とまぎれる。ふと、気が付くと・・・魚体が見えた?
いや、違うか。ピックアップしてもう一度キャスト。なにか、気になる。フライは沈んでしまった。
また、気になる。聞こえるのか。と、水中のフライのあたりになにかが近づいた。
おっと声を上げてロッドをあおるとフライに枯れ葉が引っ掛かり宙を舞った。
気にすまいと思ったが我慢できずに振り返った。やはり、さっきのところでまたライズしている。
力強い流れが更に上流へといざなう。 水面の波が作る光の縞模様。
慎重に攻めても一度通り過ぎたところでしているライズはなぜか釣れない。
僕の心情的な姿勢が後ろのポイントに向き切っていないからなのか。
あらためて上流へ進んだ。
少し傾いた陽に照らされた新芽が、緑に透けて光って見える。
次のライズを最後にしよう。そう決めてライズを探しながらめぼしいポイントを流しながら歩いた。
そして最後のライズが見えた。
それは歩いて通せない30mほどのプールの先の流れ込みでしていた。
僕はリールのラインを引き出した。
このあたりもようやくの新芽。鮮やかな新緑の季節が近い。