オプティマスを点火し、ケトルを乗せてからミルで豆をひく。
食事を作る準備はしてこなかったが、朝のコーヒーだけは外せなかった。
パンをかじりながらコーヒーを淹れる。一口飲むとぐったり力が抜ける感じだ。
目覚めはまずまず。風で木がそよぐ音と鳥のさえずりは、携帯のアラームよりはずっと心地よい。
さっと片づけして準備完了。少しでも早く川へ行かなければ。この日は予想最高気温が27度くらいまでいくと言っていた。冗談ではない。
キャンプの朝はさわやかと気だるさが同居しています。
目当てのK川水系だが、ダム建設の本流を避け支流へ入ることにした。
支流といっても大きい。またもうひとつ山を越えてようやく着いた。
しかしこの支流、なんだか水が薄く濁っている。田んぼの影響かなあ。
遊漁券を売っている民家で聞いてみたが、濁りの原因はよくわからない。そしてここでも今年の釣り人は少ないという話を聞いた。
どうするか? 濁りの流れでやってみるか。
地図を見るとこの支流に流れ込むもうひとつ小さな支流が近くにあることがわかった。
支流の支流、細い谷あいへ入り込む。
規模はわりと小さめだが水量のある支流だった。
そしてなにより渓流釣りの漁期を示す漁協の看板が立っている。それならばちっとは期待が持てそうだ。
いつもの通い慣れた西中国山地の川なら、どの時期はどこらがいいか見当がつく。
今回の水系は普段は来る機会がないが、ずいぶん前に釣りに来たことはあるにはある。
その時は一番目の支流で釣った。小さなヤマメが釣れたが、その魚体の薄桃色が記憶に焼き付いている。
この二番目の支流は果たして?
情報なしの川での釣り。当たるか外れるか?
少し奥まで川沿いの林道を進み、適当な所に停めて入渓した。
まだ木の枝がかぶさっていないからロッドは振れる。
最初の流れに投げるとぽこんと魚が出た。あっと思ったが空振り。これで魚が居ることがわかった。
しかしいつもと場所が変わっても、同じように空振りするなあ、我ながら。
流れは広くも狭くもならず、同じ感じが続く。その後魚の気配はない。決して魚影が濃い川でもなさそうだが、ここがダメならもう移動する川がないなあ。
なんとも痩せたヤマメ。魚体はきれいなんだけど。
そうこうしているうちにひょっこり一匹釣れた。ずいぶん痩せたヤマメだ。
一応遠征釣行の初物ということで、おめでとうございます。しかしここまででかなり時間を費やした。
実際のところK川本流界隈もダム建設に合わせて新しい道路が出来ていた。そして僕の持っている地図は古いから、そんな新道は載っている訳がない。一番目の支流へ辿り着くまでにもかなり時間をロスしていた。
それから支流の濁り、二番目の支流へとの運びになったわけだ。
もうこの支流で腹を決めて釣るしかない。どうやら陽射しは天空にさしかかり、予報通りの27度の熱射を降り注ぎ始めている頃だ。
あらあ〜、右のヤツ食べるつもりだったのに、こんなのくわえちゃった(>_<) 早く芽吹いて、強い陽射しと有害な紫外線を遮断して〜σ(^_^;)
また何匹かやせヤマメが掛かった。解禁直後のこのあたりももっと魚影が濃かっただろうが、そこはやっぱりどの川でも事情は同じようなものだろう。
本流や一番目の支流が良くなければこの二番目の支流に目をつける釣り人が何人もいてもおかしくはない。
いつもと違うよその川というだけで、なんだか過度な期待を持ってしまったのは、わざわざそんな場所へ出掛ける手間と意気込みを生かしたいと言う自分の行動の弁護のようなものだ。
ただいざその場に立つと、そこにあるのはこちらの気持ちは無関係の現実だけであるのも間違いない。
最高気温更新〜。水辺の風も温風に!?
流れが直角に曲がるポイントが現れた。
流れは岩盤にぶつかってこちら側へ向きを変えている。ぶっつけの手前がちょっとしたプールになりぶっつけ後の流れの先に僕が立っている。僕はぶっつけ手前のプールの流れの筋に対して真横からフライをキャストした。ラインはゆるいプールに落ち、フライは流れに乗った。
ラインがあまり動かないからフライにドラグがかかるまで3秒、2、1、出た!
合わすと水面で魚体が飛び跳ねた。ヤマメのジャンプ!? そのあとヤマメはぐいぐいロッドを絞り込んでぶっつけの際の深みへ向かう。どんな掛かりなのか? 無理に寄せてバレないか??
ラインの突き刺さる水中の先でぐねぐねうねる魚体が、ゆっくりと浮かび始めるのが見えた。
ネットですくった途端ズシリと重い感触が伝わった。
ネットの中の薄桃色は本当にわずか、ほんのりと色を残していた。
この一匹でここまで来た労力は報われた。竿をたたんでまた温泉に入りに行こうか。もう汗びっしょりだし。
しかし何年か前にこの水系で釣ったヤマメには悪いが、このヤマメにはうっとりさせられる。

林道に上がり車へ戻る前に、もう少し上流をのぞいて見た。するとどう見てもここから先の方が良いポイントが続いているではないか。
温泉は後回しになった。
暑い照り返しの林道を行ったり来たり。