支流の入り口でちょっと戸惑った。
木の枝がかなり伸びて川をおおっている。
確か奥へ入るといくらかは開けてくるはずだ。その記憶を頼りに薮沢よりはちょっとはましな流れへ入っていくことにした。
しばらくはフライを流すのはあきらめようと思っていたが、細いなりにゴギが潜んでいそうなポイントはある。
ほとんどティペットキャストで投げるとぽこんとゴギが飛びついた。
わかりやすいやつだなあ〜。
この釣りを始めた頃よく来た川。原点回帰です(^_^;
平日にかなりの雨量が記録され、天候の回復はぎりぎり週末に間に合った。
久しぶりの川はやはり増水していた。田んぼの濁りも入っていた。
僕がこの釣りを始めた頃ここはよく来ていたが、「雨が降れば降るほどよくなる」と釣り仲間から教えてもらっていた。だから雨で増水したらここへ来ていた。
しかしこの日は予想以上の増水で、さすがに場所を変えないと釣りは難しいようだった。
その時、この支流を思い出した。
ちびゴギさんこんにちわ。お仲間はもっと上流?
よく釣りをした区間が二手に分れているそのひとつ。一度だけ今よりもっと早い季節に入ったことがあった。
その時も増水していて、とにかく上流域なら釣りができるのではないかと思って一か八かで入った。
それが大当たりだった。川は小さいがたいていのちょっとしたポイントで必ずゴギが出てきた。
それ以来ぶりだったが、条件はあの時と季節が違うが増水は同じだった。
だがちょっとの季節の違いがこれだけ木の枝葉を伸ばしているとは思わなかった。
何度かの台風で倒れた木もそのまま放置されていて、更にロッドを振るどころではない。
ほとんどちょうちん釣りみたいなやり方で、確かにゴギが出てくるのだが、ほとんどをバラしてしまう。
こんな釣り方ではちょっとあんまりだ。
倒木を乗り越えクモの巣と枝葉をかきわけ、その先にようやく開けた流れが見えてきた。
上流域が開けてきた。これからが本番よ。
気をつければフォルスキャストも出来る。これくらい広ければ十分という感じだ。ポイントも少ないながらにちゃんとある。早速キャストすると赤い魚が飛び出した。
狭い流れを走り回られて、僕はロッドを高く保持したいが枝に当たる。
ロッドの中間辺りを持って無理やり寄せた。
朱点が鮮やかなアマゴだ。ここはゴギ域だがしっかり勢力をのばしていたようだ。
よし、これでリズムをつかんだ。これからしばらくは流れは開けたままのはずだった。
濃く深い色の朱点が鮮やかなアマゴ様。
少し不安が頭をよぎった。
確かこの支流は林道が平行して走っていたと思ったのだが、どうもそれらしいものが見えてこない。
前に来た時よりも枝葉が多いから見えないだけだろうと思い、先へ進んだ。
何度かまたゴギが飛び出したが、どうも合わせが弱いのかすぐにバレてしまう。
枝に当たらないまでもこれだけ川をおおうように濃密に木が生えていると、どうも合わせも遠慮がちになってしまうようだ。

気が付くと開けた空間が狭まってきていた。記憶ではかなりの距離がストレスなく釣りが出来たと思ったが、どこかよその川と混同しているのだろうか。
おおいかぶさる木の枝をかきわけ、ぽっかり現れるポイントでまたゴギを一匹。
しかしどれも小さい。さっきの濃い朱点のアマゴくらいのサイズならまだ満足度も上がるが、ちびばかりでこうも狭いとかなりバテる。
またそろそろ前方の視界がわるくなってきた。
かなり奥まで来ているが、林道が一向に見えない。
とにかく林道の存在を確認しようとロッドを置き斜面に取りついた。
クマザサと潅木の中を泳ぐように斜面をじわりじわりと登った。
クマザサエリアを抜けると斜面が見えるようになった。見上げる雑木林の斜面に林道は見えなかった。
どうも僕はこの川とどこか別の川を勘違いしているのか。
あるはずの林道がない。ないものはしょうがない。
斜面を下って川へ戻った。さて、どうするか?
この日くたくたになるまで使ったヘアウィングパターン。お疲れさま。
上流を見るとまたなんとかロッドが振れそうなポイントがある。
珍しく深く幅の広い小プールだ。きっとここが最後のポイントで、これから先この川は原生林の薮の中に埋もれて消えていくのだろう。
最後のプールに朝から結びっぱなしのフライを投げた。
着水したかしないかのうちに水飛沫が上がった。ロッドをあおると逆に引き込まれた。ぐいぐい引く。
プールの底に入っていた魚が水面に出てきて、今度は奥へと逃げようとする。
また赤い魚だった。
これまたオレンジの斑点がキュートなゴギ様。
尾ひれを激しく振って抵抗するそいつをなんとか引き寄せた。
先ほどのアマゴに負けないきれいな朱点をまとったゴギだった。腹もひれのふちもオレンジ色に染まっていた。

まだこの先にもこんなゴギがいるに違いない。でも人間はこれ以上この川に踏み入ることはできない。
ゴギを見ていると、おまえはここまでだからもう帰れ、と言っているようだ。
僕は振り返り、木々に埋もれた川へ向かって歩き始めた。
そりゃ帰れるさ。帰ってやるさ(^_^;