ヘルメットにウエットスーツにライフベスト。
それだけで熱中症になりかねない。まだウェーダーのほうが涼しげに感じるな。
目当ての入渓地点にはすでに車が。川筋にちらっと見えたパーティーは総勢4名の沢登り(なんか今風の言い方があるんかね?)だった。
まあ彼らならたとえ僕が先に着いていても必ず追い抜かれていた。問答無用でね。

仕方なく少し下流をやってみることにした。ほんの少し下るだけでクモの巣の密度は大きく変わる。気温も水温さえも高くなってしまう気がする。
しばらくは反応がなくクモの巣との無音の戦いが続く。時折現れる好ポイントに気持ちが高ぶると一気に偏光グラスが曇ってしまう。
極力平常心でキャスト。しかし偏光の曇りを気にする出来事は起こることはなかった。
前夜からどの川のどの区間をやろうかとイメージしていて、それが叶わなかったことがどうも釣りのリズムを狂わせているように思える。
まずいリズムが始まった。
いよいよ夏本番。
日なたに3分以上いられません(^_^;
いきなり一匹出た。
出たというよりもピックアップしたら釣れていた。
ちょっと不本意ではあるが、とりあえずボウズは消えた。
その後も何度かフライへ出るがかからない。スレる理由は釣り人のプレッシャーか、それとも暑さか。
木がかぶさって直射日光は届かない流れではあるが、狭い空は青く晴れ渡り、夏雲が浮いている。
時間が経てば経つほど釣りづらくなりそうだ。
ぽつりと水滴が落ちてきた。セミのおしっこか?
ゴギさんにも地球温暖化はひとごとではありません。
また一匹。今度のはかなり小さい。
なんだかしょぼいゴギばかりだなあ。この川も解禁から五ヶ月目でかなりくたびれてきている感じがする。
それにこの日の川はなんだか薄濁りだ。上流で工事? それはないか。
少し開けた場所に出た。もろに日差しを浴びると体力が奪われていくような気がする。
と、また空から一滴。雨か。
ぱらぱらと落ちてきた。空はしっかり晴れている。不思議な明るい雨になってきた。
しかしこれはチャンスではないか。突然の雨がゴギの活性を上げるかも知れない。

天気雨の効果はなかなか現れず、そのうち雨は止んでしまった。
ちょっと降ってすぐ止み、全開の直射日光。一気に湿度があがり、これはもう耐えられない。
汗は吹き出し、目の前でブヨの集会が始まった。まずいリズムが加速したようだ。
水量は満足、魚影は不満。
ゴギの未来を考えたことがあるか!(^_^; 雨上がりの渓。まぶしい乱反射。
川の水の濁りが消えない。
なんの濁りなのか。そのせいか、ゴギもぱったり出なくなった。
こりゃあ思い切って場所を変えた方がよさそうだが、なんとなく切り上げ時のタイミングが掴めない。
また雨が落ちてきた。空は晴れている。今度はちょっと雨粒が大きいが、これくらいなら濡れても知れている。きっと乾くスピードの方が早いだろう。
だが大粒の雨が水面に落ちると派手に飛沫が上がる。ゴギやヤマメは雨粒には警戒しないのだろうか。
僕は帽子に落ちる雨の感触を楽しみながらキャストを繰り返した。
この程度の雨ならカッパを着る必要はない。
ゴギは全く音信不通になった。どうしちゃったんだろうなあ。せっかく雨が降っているのに。
その雨も次第に雨足が強くなってきた。だんだん雨に濡れることを楽しむなんていう余裕がなくなってきている。
僕はふと、最初からの川の濁りは雨だったのではないかと思った。
ずっと晴れていても源流の山の峰は局地的に豪雨となっていたのでは? そうするとその雨雲がだんだん下流へ向けて移動してきているのなら、このあたりもバケツをひっくり返したような大雨になるのは時間の問題ではないのか? と。
そうなると、もうゆっくりしてはいられない。最後のゴギをキャッチして、車へ戻らなければ。
ほぼいきなり、豪雨はやってきた。
フィッシングシャツの上から痛いくらいの勢いで雨が叩きつけられる。
カッパはもってきていない。夏の夕立を友に粋な釣りを・・・。
アホか、10秒でびしょぬれになった。
目の前にはきっとこの日最良のゴギポイントが見える。これは放っては帰れない。
帽子のつばからぼたぼた落ちる水滴が邪魔だ。偏光グラスも役に立たない。
フォルスキャストをしていて、ティペットが絡んでいるのに気が付いた。
キター! 豪雨の絨毯爆撃!!

ティペットを直す。
切り取って新しいティペットをブラッドノットで結ぶ。結べない。
濡れたティペットがこんなにも結べないものとは知らなかった。
なんとか結べても引っ張ると切れてしまう。もう一度、また切れた。
もう一度・・・。
川の濁りは加速し、水面は叩きつけられる雨で泡立ち始めた。
僕はこの日の釣りが終わったことを悟った。

一時間後、豪雨のエリアを脱出した僕は露天風呂に入っていた。
汗も悔しい思いもここで洗い流そう。
そして、雨の景色を堪能しながら、露天風呂。