熱帯夜は関係ない。
朝までクーラーをつけっぱなしだからだ。こりゃあ体に悪いね。
早朝の出発で朝の汗かきは回避できた。高速を走り峠を越えて目的の渓に着いた時には谷あいに日差しが届くぎりぎり前だった。
川は涼しい。まだ朝のうちだから空気もヒンヤリしている。
しかしそれは時間との勝負でもあった。涼しいうちに少しでも釣っておかないと、日中は釣りになるまい。
魚だって水の冷たいうちしか活性は高くならないはずだ。
街は35度に達し、その時渓は?(^_^;)
すぐにチビヤマメが一匹釣れた。
そのあともフライをくわえないまでも、見に来る魚影が確認できた。
やはり朝のうちだとヤマメの反応もいいようだ。
連日の猛暑日、熱帯夜、果たして釣りはどうかと不安だった。まとまった雨でも降ればだが、それもこの一週間はなかったようだった。
それがそこそこの魚影を確認できて少し安心した。
街の暑さ、冷房べったりでの体のダルさ。これで釣りもさえない釣果だといいとこなしになってしまう。
一気に標高を下げ、谷底へ。
この川レギュラーのポイント。必ずヤマメが潜んでいる。
一投目でばっちり出た。掛かった途端下流へ走り、僕はばたばたともたつきながら追いかけた。
この川のアベレージを越えているヤマメにひとしきりレンズを向けた。
写真を撮っていると汗がぽたぽた落ち始めた。あっという間に川筋にも陽の光が差し込み始めていた。そして一気に気温も上がってきている。
もたもたしていたらヤマメが釣れない時間帯に突入する。
ヤマメをリリースし、カメラをしまって先を急いだ。
夏まで生き長らえたヤマメ様。産卵まであと3ヶ月。
広めのプールであちこちにリングが広がっていた。それがトンボの仕業だとすぐにわかったが、プールを縦横無尽に飛び回り水面をちょんちょんしているのがなんとも気持ちよさそうだ。
中型のトンボだが、大ヤマメが潜んでいたらタイミングを合わせて飛びつかれるのではないだろうか?
そんな大ライズは見えないから、このトンボは運がよかったようだ。
プールの中央くらいまで進み、キャストする。流れ込みに届いていない。しかし腰まで水につかるとかなりヒンヤリして気持ち良い。
水底にはハゼのような姿の小魚やサワガニが見える。まだ街のようにはセミは鳴いておらず、水の音と小鳥のさえずりだけが聞こえる。
静かだが確実に日差しは僕を照らし続け、体力を奪っていくようだ。
風がなかった。この場所で風さえ吹けば天国なのに、全くの無風だ。
朝の二匹のヤマメのあとが続かない。もう時間切れだろうか。
プールの奥へ投げたいのか? 
ただ水につかりたいだけか?
渓の水で顔を洗う。
何度も何度も水をすくい、顔をこする。それから帽子を濡らしてかぶる。夏は毎回これをやるが、これがなんとも気持ちいい。
キャストに疲れてきても、またリフレッシュして集中力がもどってくる。
木陰はまだしのげるが日なたはもう立っていられないくらいの熱射にさらされている。
ポイントは日陰に絞られるだろう。ただそういう場所は木の枝葉とクモの巣の鉄壁の守りが立ちはだかっている。一筋縄では行かない。
平均以上、二匹目。この川では珍しい。
倒木の下に好ポイントがある。この倒木は去年来た時にはなかったし、ここはちゃらちゃらの瀬だった場所だ。一年以内に出来た日の浅いポイントという事になる。
クモの巣はあまりないが手前に邪魔な枝がある。仕方ないから少し上流へ回り込み、上から流し込んでみた。
フライはうまいこと倒木の真下へ流れたが、なにしろ自分がすぐ上流側にいるのだから近過ぎる。
と、フライにバサッと水しぶきがおおいかぶさった。合わすとズシッと重い。ロッドはすぐ倒木の枝に当たった。僕はしゃがみ込んで姿勢を低く取りロッドを横に引いた。ヤマメが水面に現れた。バシャバシャ暴れている。ロッドを更に引いてネットですくった。
バーブレスのフックだった。しっかり食ってくれればちゃんとバレないでキャッチできるな。
リリースしても体力回復のためひと休み。 日なたはつらい。糸を結んでいたらくらくらします。
川筋を涼風が吹き抜けた。
これだ、これがなきゃあ。この日二匹目の良型とこの風でリズムに乗った気がした。
風が一陣吹き抜けるだけでバテた体がシャキッとリセットされたようだ。そして気持ちよい手応えをくれるヤマメが釣れた事がなによりの処方箋になっている。
風が止むとまた空気が淀んだようにぬるくなるが、元気はたっぷりストックされている。
そしてまた一匹、ロッドを深く曲げるヤマメが掛かった。
源流の山を背にして下っていく。
釣りの後の行き先は温泉です(^_^)