トンネルを抜けると、たいがいの場合雪にまつわる景色の登場とあいなる。今年はこれまで毎回使っている七つ目のインターチェンジへ行く時も、ここの景色は降りなくても通過の際に見ているのだが、明らかに先週のそれよりもトンネル出口的景色が色濃い。
つまりまた降った? ということか。
今回は四月になってもその山肌に雪を残すあの山へ向かう。
解禁後初めて降りるこのインターチェンジの桜並木は、それでも五分咲きといったところだ。
天気予報では予想最高気温は二十度になると言っていたが。
五つ目のインターチェンジを降りるのは解禁後初めてだった。
土手でふきのとうを摘む。
七つ目のインターチェンジの川ではふきのとうはとっくにトウが立っていた。このあたりの標高の高さがわかる。
M川氏が川への道を歩きながらちらちら見える川面を分析している。
水位、透明度、流れのよれ具合。その全てが今までにないくらいの好条件だと、振り返ってそう言った。
ただ少し時間が早かった。ようやく川面に陽の光が当たり始めた。虫はまだ飛んでいない。しかしここに立ったからにはじっとしてはいられない。フライを流しながら様子を見てみることにした。

M川氏は今年の釣りはことごとく増水に悩まされていた。行く先々の水の具合は竿を出す気力を萎えさせるに十分のものだったらしい。
僕はその点、増水ではあってもなんとか釣りになっていたし、天気にも恵まれての釣りが何度かできている。
それにしてもここの標高は高いようだ。水の冷たさだけでも尋常ではなかった。
満を持してとはこのこと。
期待度100%のM川氏だが・・・。
川は沈黙を続けていた。魚がフライに出ないまでも、それを追いかける影すら見えない。
川筋を上流へ目を向けると、どこかでこの状況が一変するとは思えなかった。ここへ来るまではあれほど高まる期待に胸が躍っていたのに、今はそのかけらもない。
時間が早いか、時期が早いのか といったところか? と思ったが、M川氏はそうは思っていないようだった。この川には昨年の放流会でも魚を入れていた。でもそういったことに関係ないなにかの条件が大きく働いているようだった。
もはやこの川では魚は釣れない。M川氏も僕もそのことを疑ってはいなかった。
場所を変えることにした。
雪を残す山塊の懐を脱出し、その山の峠を越えて西側へ。
僕は当然こちら側も今年初めてになる。峠付近の斜面や路肩には雪が残っているが、路面にはない。
峠を越えて下っていくと次第に季節が進んで行き出すのが感じられる。
中流域の山里まで降りると雪は全く見られなくなり、山の木々は芽吹いてはいなくてもゆっくりと春が進行しているようにも見える。
集落をつなぐ細い村道を辿っていくと広い離合帯があり、河原へと続く道が見えた。
きっとこの水のほとんどはまだ雪解け水なんだろうなあ。
河原で天むすをほおばる。
やっぱり外で食べるとうまいが、昨年壊したMSRがあればなあ。代替えのオプティマスもいまいち調子が悪いままだ。

水はやや多めといったところだった。見た所ライズはない。こここそライズを見つけての釣りでないと、めくらめっぽう流していてもらちがあかないだろう。
ただ最初の川のこともある。過度は期待は持たずに川の観察を続けた。
3つ目の天むすを食べ終わった頃、ふわふわと虫が飛び出した。
まずは第2ラウンド開始前の腹ごしらえ。
力強い里の川の流れ。魚の気配ムンムン。 しぶとかったライズの主。あとはサイズか。
目の前で小さなライズがあった。
M川氏がすかさず釣り上げたが、かなり小さい。
「上流と下流にわかれてやってみようや」とM川氏の提案に、僕はすかさず「上流へ行きます」と言った。
昼を回って陽射しがきつく感じ始めたが、それよりも風が強くなってきた。
上流へ向かって最初のプールで僕にも早速一匹きた。
小振りだがまずまず。最初の川から比べたら魚の気配は間違いなく感じられる。また大きめの虫が風に流されて何匹も飛んでいった。じきにライズが始まるかもしれない。
天むすポイントの一匹。
たくましく増水を切り抜けてきました。
少し歩いた先のプールで思い通りにライズが始まっていた。
結んでいたパラシュートをそのままキャストする。全く反応なし。
CDCダンに変えてみる。反応なし。
フェザントテールで水面下を流してもダメ。
あきらめて更に上流へ向かった。
緩い流れで極小のヤマメが#12のフライをくわえてくれた。
同じような瀬とプールが交互に現れる。そして同じようなちびヤマメばかりが釣れるようになった。
まるで今しがた放流されたばかりのヤマメを釣っているようだ。
M川氏はたいして移動していないのに・・・。
もうライズを待ったり探したりの余裕がなくなった。先に見えるプールでなら良型が出てくれるような気がする。しかしまたちびヤマメだ。するとその先にまたプールが。
気が付くとずいぶん上流まであがってきていた。次に見えるプールを最後にする。そう決めて丁寧にキャストした。だがそこにはムツもハヤもいなかった。僕はあきらめきれずにまた先を目指して歩き出した。
なんだか足がよろける。キャスティングもだんだん雑になってきた。
ティペットにはいくつものノットができたままになっていた。
戻ってみるとM川氏のネットにはヤマメがあふれていた。
少し広めのそのプールは、流れの早さも水深も申し分ない。
こここそこの日のベストポイントだ。僕は自分に落ち着くように言い聞かせて、ティペットをやりかえフライを結び直した。一投目で一番いい流れに落とさなければ。慎重にフォルスキャストをし、最後のフォワードキャストをしようとした時、後方でラインが止まった。引っ掛かっている。僕は潮時を知った。
最初の河原に戻るとM川氏が笑って足下のネットを指さした。

行きのときは五分咲きだった桜も帰りのインターチェンジでは七、八分咲きにまでなっていた。
山の桜は市内よりも1〜2週間くらい遅れて満開を迎える。