足がよく上がっている。
アシや蔦が絡まっても片足で立って振りほどける。
そうか、これはこのひと月の間ストレッチをやっているせいか。渓へ赴くにはしっかりとトレーニングをしていくべきなんだな、きっと。
この日の川岸もビブラムソールのウエーディングシューズだから、雪がひっつく事もない。
そしてまた釣りのシーズンが始まったんだなあとそう感じる時がやってきた。
ただ、無難に初回を過ごしたいのにそうはいかない、きつい流れが目の前にあった。
彼方の川へ。こうやって今年も始まっていく。
まずこの岸辺の雪はなんだ。
桜(いや、梅? なんだ?)が咲いているのに、その下にはたっぷり雪がある。
花見に雪見、これであとは月がありゃ・・・。いや、あとはヤマメだな。
実際雪もだが水位が高い。週の中ごろにかなり雪が降っている。そのあとは一気に暖かくなったからこれはその雪代か。
去年一匹目を釣ったポイントも消えていた。僕は川には入らず岸辺を歩いて川を遡った。
これに加えて、解禁から2週間が経っていると言うことも、釣りを困難にさせるに十分な条件だ。
やさしい陽の光に照らされて、雪も花も季節を知る。
それでもやる気にさせるのは柔らかく晴れた空と無風の川筋。そしてすでにちらほらと飛んでいる虫たちだ。
しかし毎度のことだがここでドライかニンフかで迷う。
飛んでいるのはユスリカっぽい極小の虫だし、ライズがあるわけでもないから取りあえずニンフを結んだ。
ひと頃量産していたビーズヘッドはあまり巻かなくなった。
今はオーソドックスなゴールドリブドヘアーズイヤーだ。
ウエイトは巻き込んでいるが、この水流では深く沈むことはなさそうだ。それでヤマメの目につくかどうか。
これは、腰のリハビリになるな〜。
すでに何度か渓に出向いたM川氏から聞いた話の中の、釣り人の姿が少なかった、というのがなんだか気になっていた。
天気の不順のせいかもしれないし、経済的な理由なのかもしれないと思った。
実際この日もこの川沿いにそう多くの釣り師の車は見なかった。
確かに水は多いがそれは来てみないとわからない。天気予報ではこの週末は当然行くだろうという天気だったし。
あまりフライを流さないまま大きく開けた場所に来た。
ここは毎年必ず釣っている場所だった。今年も固いだろうと思っていた。
大型カゲロウ登場! これからが本番だっ!
流れが曲がっているところは毎年来る度に様子が変わっている。川の流れに岸辺が少しづつ侵食されているのだ。
その脇に別の流れのゆるい溜まりがあった。まあちょっと投げとこうかとニンフを投げ入れるとぐるりと魚が翻った。
あっと思って合わせたがニンフをくわえた訳ではない。そのあとすぐにドライを投げてみたがもうその魚は出てこなかった。なんだかとんでもない失敗をしてしまったような気がした。
そして本命のポイント。薄く雲がかかっているがそれを透かして陽射しもある。風はない。水はやたら冷たいがここはドライでいく事にした。
その細長いプールは水量は多いがフラットでいかにもヤマメが潜んでいそうな様子をたたえていた。
これだけ大きいのが飛んでるとなんだか落ち着かない。 ぬおー、まるでトランポリンの上だ〜。
一番良いポイントに一投目を投げ入れた。
(出る出る)と流れるフライを凝視する。いやあまり見過ぎると気付かれる。たまに顔をそらし(視線は残しておく(^_^;)息を吐いて自分の気配を消す(のつもり)。だが顔をそらしたり息を吐いてる間にフライは下流へ流れていってしまった。
もう一度、もっと奥へキャスト。水中をぎらっと光るくらいしてもよさそうだが、それもない。
いないのか、それとも潜んでいるのか。ライズがあれば攻めようがあるが。何だか僕はこのポイントで釣る気がなくなってしまった。
毎年の見慣れた風景も、水量で大きく変わる。
気が付くとなんだか風景が違っていた。それは水量や雪のせいだけではなかった。
川から見える山々がかすんで見える。全体にぼーっとした印象だ。このポイントを諦めたら周りを見れるようになった。
これは・・・、黄砂? そうなのか? このあたりが黄砂におおわれているのは今まで見たことがなかった。
このぼんやりした感じがまるで水の中にも浸透しているように思えた。
時間は正午をまわった。薬を飲まなくてはならない。僕はいったん車へ戻る事にした。水の冷たさで足がしびれていた。
ライズの一匹。始まる時間帯にどこにいるかが問題だ。
車のところへ戻ると別の車が停まっていた。
ルアーロッドを持った若い人が立っていた。
話を聞くと僕の入ったところの下流側をやっていたらしいが、一度感触を得ただけでさっぱりだという。
それにしても釣り人を見たのはこの日これが初めてだった。雪の上に足跡はあったが、やっぱり釣り人はかなり少ないみたいだ。
昼食をとり場所を移動した。水量が多いのでもっと上流でやってみるしかないと思った。
少しでもフラットで流れのゆるいところを選んで川に入った。ぽつりと雨が落ちてきた。
空はにわかに曇り、冷たいものが落ちてきた。
ピュッと白いものが水面に飛び出した。ライズだ。
どう見てもかなり小さい。でもまずは一匹を手にしたい。
#16のCDCダンを結んだ。頭上には大型のカゲロウが飛んでいるが、彼らに対してのライズではなさそうだった。
まず一匹。予想通りワカサギみたいなヤマメだった。その後まだライズしているが釣れない。フライが沈んだのでピックアップすると釣れていた。
そうか、水面近くには虫は見えない。直下かもう少し下か。
それならとフェザントテールに結び変えた。じわりとマーカーが消し込まれた。
良いお顔をなさっています。あとは体長だな。
流れがきつい区間になったのでまた場所を変えた。
雨は降ったり止んだりだが気温はすっかり下がった。
それと一緒に僕の戦意も下がってしまった。
なにか風景がぼんやり薄らいだ感じが釣りのリズムに乗り切れない理由のような気がした。

最後にしようと決めた流れはなんとかドライでも釣れそうな荒れていない水量だった。辺りの光量も落ちてきて投げたフライが見えずらい。
スッとフライが消え、合わせると掛かった魚の方から寄ってきた。
黄砂をまとったような色のヤマメだった。
雪と黄砂、同時に見たことのないものに惑わされた感じ〜。