その11  続く日常、途切れる回想、あくなき物欲!?
2002年。う〜む、早いもので半年ごとに「オフシーズン」なるものが自分の一年のサイクルの中に組み込まれてから、その「休息期間」も10回を数えた。解禁と禁漁期間で一年が二分され二つの全く違う顔の時間を過ごすという、一種独特なスタイルはほかのジャンルの趣味のそれより色濃いように思う。
フライフィッシングを始めた当初は無我夢中で釣りに行き、ささやかではあるけれどその日の釣果に一喜一憂したものだ。まあ、それは今でもあんまり変わらないんだけど、釣りそのものや道具など取巻く様々なものに変化は見られる。
ロッドやリールも増えたし、タイイングツールやマテリアルやフライベストなどそれぞれいっしょに過ごした時間とともに今にある。
まあ特に何があったと言う訳でもないのだがフライフィッシングを始めた頃を思い出してみた。私がフライフィッシングを始めたのは10年前の実に9月、「オフシーズン」からだった。
この釣りのの第一歩は本だった。
日本を代表する三人のフライフィッシャーの共書で、中の記事は更に二十四名の方々の文章で埋め尽くされていて、非常に読みごたえがあった。
しかし、それだけではない。この本で初めてフライフィッシングに具体的に触れた訳で、ページをめくるたびに目に飛び込んでくるモノクロの写真や言葉が新鮮で(と言うか初めて目にするものばかりで)、強く深く記憶に上書きされていった。
「日本のフライフィッシング」。
 初版は1989年4月。
フライフィッシングは専門用語が多い。道具にしろタイイングにしろ最初はわからないままで読み進み、わからないことが逆に謎の魅力(?)に思えてよけいに引き込まれていった。
その後、フライフィッシングの本は何冊も買ったがこの最初の一冊の強烈な印象は、今ページをめくってみるとしっかり甦ってくる。
タイイングのページも何やら怪しげな材料の名前とかが羅列されてるし。
フライの雑誌で最初に買ったのは1993年の秋号(25号)のフライリール特集のものだった。表紙の老人が毛ばりがびっしり刺さったフライボックスを持つ様子は古さも新しさもない、全くの今のフライフィッシングの光景そのものだ。
ずいぶん久しぶりに引っ張り出して表紙を見て、でもその古くさくなさが逆に頼もしく思え、この釣りをとりまく様々なものたちの懐の深さを改めて実感できた。
表紙の裏側の広告はシマザキの「FLYWING AT」だった。
この号の特集のリールのページも今見てみると、当時必死に読みふけったことが容易に思い出される。ここでも初めて見るフライリールの名前やメーカー名にわからないなりにぞくぞくしたものだ。
ここで「バーストック」という言葉も初めて目にした。おぼろげながらにそれが製造方法を指す言葉だとは理解できたが、ここでもよくわからない言葉の謎の魅力に取りつかれた。
ハーディ?オービス?エーベル?? なんでこんなに穴が開いてるの???ってね。
これらの本を初めて手にした時の、どういうンだろう、どきどきする感じって今はかなり無くなってきていると思う。更にその半年後、初めて行く川、初めて振る竿、初めて巻く糸、初めて釣る魚。そりゃぁそんな初めて尽くしの状況にどきどき感で今が勝てる訳がない。
ただ一度きりの鮮烈なこの釣りとの出会いの印象は、でも時を経る毎に薄れたり時折思い出したりと、見え隠れを繰り返す。
2年目、3年目は物欲の時期だったと思う。あのロッド、このリールとある意味飽食ならぬ、飽物の時代だったかも知れない。
そして10回目のオフシーズンを迎えた現在、そりゃぁ今でも食指の動くものには反応するがずいぶん落ち着いても来た。しっかりした道具がそろったせいもあるし、また最初の頃のシンプルに釣りに向き合う気持ちが復活してきたのかも知れないし。
ん〜っ、なんだか来年の釣りが無性に楽しみだぁ〜。
今年買ったロッド(SAGE)と10年前初めて買ったフライリール(HARDY)。