解禁からかなりのハイペースで釣果を上げていた彼にとっては、この時期の気候での釣りは「修業じゃないんだから」っていうことなのだろう。
そんなＦ氏を連れ出して、水蒸気の渦巻く谷あいを目指した。
目的はやっと取り付けたETCで高速に乗る事、じゃない、夏のゴギを釣ることだ。
前日にコーティングをした私のクルマは、高速ではその威力を発揮して、空気抵抗がかなり減っている（ソンナノわかる？？）
すんなり目的の谷に着くと、予想通りの朝からの蒸し暑さが待っていた。
ま、ゴギだから。そんなに苦労しなくても釣れるでしょう。
期待という弾を装填して発射。
呼吸が激しくなると偏光グラスがすぐ曇るのだ。ふき取るか外すかしないと前が見えない。
この谷あいは深く、薄暗い。そして溺れそうなほどの湿気で、不快であることこの上ない。全くこれじゃ修業だ。この修業で果たして何が得られるのだろうか？
なんて考える余裕もなく、水も前日のアメダスの降水量のデータほどにはなく、あるのはドロッパエとクモの巣の襲撃ばかりだった。
彼の釣り自体、徹底的に釣りまくるスタイルから徐々に変化していた。若い時は釣る魚のサイズだ数だと突っ走る。二日続けてだろうが、朝早くから夜になってまででもへっちゃらで、確かに釣果もそれだけのものがしっかり残っていた。
変化は仕事の忙しさもあれば歳を重ねてきたということがもたらした、というのもあるだろう。
確かに大きい魚が釣れれば言う事はないが、ここ最近のＦ氏は釣れた魚が小さくてもそれなりに喜びを感じるようになり、仮に満足出来る釣果が上げられなくても、釣りに出掛ける事自体を気持ちよく思うようになっているようだ。
ほかの釣りにこう言った変化はあるのだろうか？
それに比べてフライは時間が経つにつれ釣り手と歩みを共にする、そんな釣りだと私なりに思っている。
ギンギンに釣りにのめり込んでいる時なら、手を変え品を変え狙いの魚にフライを投じる。寸暇を惜しんでロッドを振り続け、魚を釣りまくる。それがいろいろあってちょっとしんどくなってきたのなら、スローペースでのんびりロッドを振るのもまたいい。
釣り手の事情に応じてそれなりに楽しみ方も同調してくれるのがフライフィッシングで、人によってそのスタイルはかなり違うと思うのだ。
ひとつの釣りでこんなに幅があるのって、ほかにはない気がするが。
そして、夏のゴギは姿を現さない。いくらスローペースの釣りのつもりでいても全く反応なしじゃ、それはそれでちょっと困る。スローペースはほどほど、という意味で 釣果ゼロ ではないのだ。
釣れない釣りと飽和状態の水蒸気量でバテバテの釣り師に追い討ちを掛けるように、空からナニカ落ちてきた。
釣りは、というと徐々にゴギらしき反応は出てきていた。ここからが良さそうだが、しっかり上空を覆う広葉樹の傘さえ役に立たないほどの雨の絨毯爆撃が始まった。
さすがにこの状況では戻るしかない。私もＦ氏もまるで川沿いの歩道を泳ぐようにクルマまで戻った。
（もうええわ） という顔をしている。私もちょっとこの日はリズムに乗り切れなかった感じのまま雨に降られた。
予想はしていたが、片づけ終える頃には土砂降りは収まり、遠くに晴れ間まで見える。場所を移動して、いつもキャンプする場所で恒例のお昼ご飯を食べた。
この頃になると普通に晴れている。ただ、街の暑さも谷間の湿度もここにはなかった。
釣りの中でイチバン魚を釣る事と距離がおけるのもフライフィッシングっていう気がする。釣りの目的は魚を釣るところから始まるが、そうじゃないもっといろんな取り巻く諸々をちゃんと見て感じる事ができる。
時間はまだ11時前だが、こんな状況ですっきり納竿が出来るのもスローペースの成せる技、だ（な？）。
