何年前だろうか、オフロードバイクで釣りに来た事のある谷。
荒れた峠道を越えないと川筋まで辿り着く事ができず、バイクを手放してからは行く機会を失ったままだった。
R君がその谷へよく行っていると聞いたのは二年くらい前だったろうか。
私も最近四駆に変えたが、すなわち新車ということで、荒れたダートなんてとんでもない。
じゃあ、R君に連れていってもらうしか選択肢はない。話は早いではないか。

彼に言わせると「アベレージはこんなもんです(片手で親指と人さし指を広げて)」だそうだが、私が以前何度か行った時は親指と中指広げたくらいの(変わらん?)サイズが釣れたと思うのだが。
それより久しぶりにあの源流エリアへ向かうということに、キモチが昂ぶった。
仲間内で誰かひとりこんなクルマを持ってるとなにかと心強いですな。
ゴギはすぐに姿を現した。
シーズン終盤の、散々釣り人に攻められた川とは思えない、ごくごく自然にフライに出たそいつは全くストレスのない野生の魚体をしていた。
まず、一匹。
今日はそんなにがっついた釣りをするつもりはない。気楽にゴギと遊んで疲れない程度の時間に退渓するつもりだった。いくらか釣れていれば余裕だし、気温は暑いと言ってもやはり盆を過ぎた途端の秋めいた気配は感じ取る事が出来た。
白とオレンジの斑点が、自然に並ぶ魚体。
一匹釣るたびに私とR君とで先行を交代しながら釣り上がる。
私が後攻の時は例によってファインダー越しにR君の釣りを見るのだが、シャッターを押す間もなくすぐに先行を交代することになる。なんとも濃い魚影だ。

すぐ向こうに垂涎もののポイントが見える。(R君、悪いがこの日一番かも知れないあのポイントは私がもらった)
と、思いながら足下のしけた溜まりにフライを置くと、ちびゴギが食いついた。
「!!」
今日のルールでは交代だ。しめしめという顔でR君が前に出る。
と、垂涎ポイントの一つ手前でまたR君がちびちびゴギを釣ってしまう。
ハイ、R君どいてくださいな。
もうここまで近づけばあのポイントへ投げられる。
慎重に慎重を期しての一投。フライ着水。水しぶき・・!  あ、 ・・・バレた。
ゴギの写真を撮るR君を撮る私。
フライに食いついたオニヤンマ。
優しくリリース(イト絡まってますが)
夏でもカディスが有効な訳。
R君の大ひんしゅくの視線を無視してキャストを続ける。 フン、そっちがやってたってバラしたかもしれンじゃろが・・・。(なんかコドモミタイ?)
結局その先でまたまたちびちびちびゴギ(それ魚類か?)を釣って交代。結局まだちび族の系統しか釣っとらん。今日は気楽に遊んでって思っていたが、いつの間にかそんな事では満足出来ない、帰れないって勢いになってきてしまったようだ。

それでもここまでの釣りはこの季節にして、ほぼ快適。なんでだろうって考えてみた。ひとつ、それはクモの巣がないことだ。この季節、あり得ない事だがクモの巣がほとんどない。それだけクモの狙う虫が飛ばないのか、標高が高すぎるからなのか。
前者ならゴギのエサも少なくて、ちびばっかりという図式は確かに成り立つ。
スラックラインがR君のオハコ。 晩夏を思わせる源流帯。
陽が射したり曇ったりと、太陽熱が遮断されるのもゴギが釣れ続けるのも、快適さを加速させている。
いまだに最初のフライを付けたままで、取り換える必要もない。

高所特有の冷えた風が吹き抜け、この限られたものだけに与えられた、特別な地での釣りはだんだん恐れ多く感じてきた。流れは徐々に細くなってきているし、そろそろこの川の釣りも終盤にさしかかってきたようだ。
それでもゴギは釣れ続けていた。
やっぱりティペットのチェックもやっとこ。
ほぼ、源流。ほぼ、最後。
(写真提供 R君)
この川にして、このゴギ、このヒレ。

これだけ濃い魚影も珍しかった。
ほとんど釣りが出来る限界まで詰めて、R君と私は退渓した。

峠を戻り、林道を越えて入り口の近くの広場で遅い昼食とした。
隣接する山上湖の湖面を走る風が、私たちのランチサイトまで吹き抜ける。

空も山も木々の緑もそしてこの風にさえも、全域にピントの合った被写界深度の深い一日だった。
生まれたての風が吹く場所で、昼ご飯。