其の百二  水辺の近況 「にぎやかな禁漁」
強い流れの中にでも一際目立つ婚姻色。
川原まで降りてくると水辺の動きがすぐに目に飛び込んできた。
ヤマメだ。ヤマメがしきりに泳ぎ回っている。しかも何匹も、しかもかなりでかい。
そこは結構な急流で、その先の深みから大型のヤマメが何匹も出たり入ったりを繰り返している。なによりもその体色が目を引いた。うっすらピンクの上半分。下半分は影かどうか、黒ずんで見える。30cmくらいのそんな色のものが水中を、時には水面すれすれを高速で泳ぎ回っていたら、それは目立つ。
完全なペアは出来てはいなさそうだが、明らかにペアリングの準備中だろう。しかしかなり激しく泳ぎまわっている。春や夏には普通に定位していて余分な体力は使わないようにしている感じだが、この季節のヤマメにはそんな考えはないようだ。
野生を感じる激しい泳ぎをひとしきり眺めて、上流へ向かった。
ここまでしっかりとペアリングを見れるとは思っていなかった。この深い渓谷は紅葉にはまだ早いが、散策の人たちがかなり多い。僕がヤマメをのぞき込んでいる時も(?)っていう感じで後ろを通り過ぎていった。
僕もそろそろ紅葉かと思って出掛けてきたのが半分くらいはある。実際山全体は紅いところは僅かでも、紅い葉はひっきりなしに落ちてきていた。
ひとつ岩をよじ登るとその先の淵尻に魚影が走った。またペアリングしている。しかもここも二匹どころではない。大小合わせて7,8匹はいる。
しばらく見ているとペアになっているのがどのヤマメなのかがわかってきた。
雌は割とじっとしていて時折体を横にして尾ひれで川底に窪みを作ったりしている。雄はまわりに寄ってくるペアのいない雄を追い払いにかかっている。その勢いたるやものすごい。岸際まで追い立てて、逃げるヤマメといっしょに岸まで上がってしまいそうだ。ちょっとした水面に近い石くらいなら軽く乗り越えて追いかけっこを続けている。
仲良く寄り添う二匹。 ブルブルして窪みを作ります。
スリスリ。 スリスリスリ。
ほとんど動かない雌に対して、雄はとにかく落ち着かない。
見ている方にはちょっとまわりのヤマメを追い立て過ぎなんじゃないのか?って感じだ。もう少し大人しくしてたらどうなの? そんな僕の声など届くはずもなく雄ヤマメはまたまわりの魚を追い立てる。
それはもう必死の様子で、しまいには訳がわからないくらいにトチ狂って自分のパートナーまで追い立てたりしている。ダイジョーブ??
同じ姿勢でファインダーをのぞき続けていたから腰が痛くなった。
一度腰を伸ばして、またのぞく。
しかしじっとしてないなあ。あんまり落ち着きがないと雌に嫌われるよ。
と、不意に水面で動きがあった。なにごとか? なにがおきたのか、と思ったらライズだった。
見るとカゲロウが弱々しげに飛んでいる。
午後のハッチが始まったようだ。こんな時期でもライズはするんだな。
追いかけっこにライズにと、シーズンオフの川は釣りの時よりもずいぶんとにぎやかだ。
里も秋に向かう準備。ハラも減ります。