其の百六  Scoop up Trout with a Net.(2)
スス竹ブラウンのフレーム。その深みのある色が好きです。
雨の週末の朝、目が覚めた時からこの日の予定は決まっていた。
マエカワクラフトへネットを取りに行く。もう完成しているはずだった。いや、いつごろ完成か、は聞いてはいなかった。でもこの日、完成していることを確信し、僕はマエカワクラフトへ向かった。
先週目にした製作中のフレームが脳裏に焼き付いている。さらに塗りと磨きを繰り返され、網を取り付けられたネットが工房のかたわらにつり下げられているはずだ。
車を降りるとその思わぬ寒さに慌ててフリースを着込み、マエカワクラフトのドアを開けた。
フレームの内張も美しい。スキのない造形。
僕が新たにランディングネットを買おうとしていると知ったある友人が「釣りのネット持ってるじゃん。なんで何本もいるの?」と聞いてきた。
彼はルアーはするのだがフライはせず、以前の僕のようにもっぱらハンドランディング派だ。
僕が使っているYネットを見たことのある彼に明確な回答は出来ない。サイズが大きく違う訳ではない。彼はネットを単にランディングの確実さを保証する道具としてしかとらえていないようで、自分には無縁のものだと思っているようだった。
そしてこのグリップ。濃淡のコントラストはアートです。
改めて見るそのネットの出来映えに自然と顔がにやけてしまう。Yネットとはまた違う雰囲気がある。
これでふたつのネットを使い分ける楽しみが新たにできた。もちろんまずはマエカワネットで最初の一匹をすくわねばならない。
すでに来年のあの川のあのポイントでロッドを曲げるヤマメを寄せて、ネットを差し出す瞬間を何度も想像している。まるで差し出したネットに吸い寄せられるようにヤマメはその中に収まった。

数日後、例の友人にマエカワネットを見せた。
彼は何も言わなかったが、その顔に納得の表情が見て取れた。