其の五十二  河川敷に集いし者達、竿を振る(2)
毎年恒例となった(?)M川氏のロッドの試投会が今年も行われた。
林立するビル群に囲まれた広場で、伸びるフライラインに通行人達の視線が集中する。
不思議なもので、いくら通行人がジロジロと眺めて行ってもそれは全く気にならない。でもただ一人のフライマンが自分のキャスティングを凝視していると意識しただけで、ガチガチに緊張してしまう、そんな人種なのだ、フライマンは。
明らかにアンバランスなビル群に伸びるループ。でもそれは、オフシーズンの街中では決しておかしい光景ではないのかも知れない。
街中のフライマン。林立するのは原生林ではなくコンクリートジャングル(!?)
はらはらと枯れ葉舞う公園での試投会は、穏やかにその時間が進み、三三五五顔を見せるフライマンたちの視線はやはり、テーブルの上のロッドに釘付けだ。
ただ、この日意を決してオーダーするかどうかは別として、禁漁してから二ヶ月経ったこの時期にまたロッドを振る事は、そろそろ虫がうずき出しかけているフライマンにはちょうど頃合いの緩衝材となったかも知れない。
フライラインがロッドに乗る感触をちょっと忘れかけていたのか、キャスティングをする人の様子を見るとどうもぎこちない。もちろんスグに勘は取り戻しているけどね。
繊細な低番手と迫力の高番手。
どっちも欲しいんですけど・・。
フライフィッシングの目的は魚を釣ることだけではない。魚を釣るための道具を使うことそのものも目的なのだ。価値のある釣魚は、その釣り上げた魚そのものに価値があるだけではなくて、どの道具で釣り上げたかと言う事にも価値が発生する。
それならどんな道具を使うかと言う事に常に思考を巡らせているのは全く持って自然な話である。
この日集まったフライマンはその傾向が突出しているメンツであることは疑う余地はなさそうだ。
毛鉤机で登場いただいたT氏。
思惑を胸に秘めてロッドを見つめています。
気に入った一本を手に入れたなら、もう新しいロッドは必要ない。そのロッドを心ゆくまで振り続けるだけだ。
と、手に入れた時はそう思うのだ。
もちろん飽きたりしない。でもそのかわり、別の刺激が欲しくなる。その一本で全ての味わいは満たせない。
オールマイティの優等生よりも、ある程度クセが強いというか、性格の偏ったものに惹かれてしまうのもまた、オフシーズンにさ迷える釣り師の性(さが)なのだろう。
F.M.氏も毛鉤机に登場頂いた。今年は2度の海外遠征で財布は極貧である。
フライフィッシングとはなんともお得な趣味である。釣りに行けなくたって、取り巻くいろんなモノ達がしっかりと楽しませてくれる。実際に川に赴きロッドを振るのが釣りだろう。その意味でこれほど釣りと離れた場所でも賑やかなのはこの釣りをおいてほかにはない。
でもチョットマテ。その、釣りに行かない時の楽しさは、どうも現金を用意しておく必要がありそうだ。それだとちっともお得ではないではないか。
もちろん代価の分だけの価値は手に入る。だけどもそれで財布の方は大丈夫ですか?
へへっ、こんなのもらっちゃいました。
(マエカワHP投稿者限定)