其の九十八  買わない(買えない?)フライリール達
YはBブランドのフライリールを気にしていた。フライショップのショーケースにあるそのリールは決して安くはない。

リールの遍歴も人それぞれにいろいろあるだろう。あれこれ買いまくって未使用品で溢れていたり、ひとつのリールを大事に使っていたり、ビンテージものにハマってしまったり、新製品に走ったり、限定ものに飛びついたり。
うう、どれも耳が痛い(^.^;)

週末、フライショップへYが気にしているリールを見に行った。
シャンパンゴールドの輝きと、開けられた穴の工業的造形が釣り人を魅了する(?)。
僕の所有しているリールはやっぱりHardy社のものが多い。
トラディショナルなものから最新テクノロジーを盛り込んだものまで、とにかく多様な製品展開が気になってしかたがない。
それでも僕がフライを始めた頃よりは、今の方がトラディショナルなフライリールは姿を消しつつある。それが逆にそんなリールを求めさせる原動力にもなっているような感じだが、当然買うのにも限度がある。
今特に釣りをする上でリールがなくて困っている、なんてことはないのだが、気になるリールはもちろんある。Yの場合は人にあげたりなんだりで、確かにリールが必要な状況ではあるらしい。大義名分があるYよりも、ない僕の方が鵜の目鷹の目なのはどういうことか? と思いつつショップのショーケースのリールを凝視した。
僕のひいきのHardy社は、最近復刻版をよく出す。
復刻版。なんとキモチの動く言葉だろう。最新テクノロジー製品を出しつつきちっと懐古版を抑えておく。ソツのない商品展開である。
いずれにしても大事に長く使いたいのがフライリールであり、自分でつけた細かい傷はちっともいやではない。
そうなると次々と新しいものに目が行くのはどうなのか?
僕自身、コレクターになるつもりはないのだが。
パーフェクトらしさは、この無造作で愛想のない穴の開け方。マイペースです(^.^;)
Yが気にしているリールは確かにいい。デザインもだし素材もよく、色も実に品良く仕上がっている。パフォーマンスよりも趣を重視したものであることは、製作段階からわかっているで、今更どうのこうのと言うことではない。
もちろんこのリールは、装着するロッドを選ぶ。なんでもいいというわけにはいかないが、そこはYのことだからちゃんと当てがあるようだ。
頻繁に流通するものではないだけに、なんとかなりそうなら僕が、とも思った。しかしそのしっかりした値段は、そうおいそれとは手が出ない。
こちらはトラウトミッジと名付けられたリール。凝縮された機能が感じられる。
フライフィッシングを10年以上もやっていれば、使う道具に対してもそれなりに目が肥えてくる。あれこれ買いまくった道具達も過ぎる年月に徐々に淘汰され、臨戦態勢とお蔵入りとがはっきり分かれた。
そんな目つきでショップのショーケースをのぞくと、それを渓に持ち出すことを即イメージできる逸品が確かにある。
Yの「当て」にあやかる訳ではないが、僕も次に新しいロッドを手にするならこのリール、あのリールとイメージしたりする。想像するのはタダだから。
でもね、次ショップに来た時に、そのリールが売れたりしていたら、ちょっと悲しいかも。
なぜか勝手に、そのリールは僕に買われるのを待っているんだと、そう思ってしまう。
撮影協力 S釣具店