その13  ドライフライウィングの機微
オフシーズンのタイイングについて何回か思った事を書いてきたけれど、今回はふと気が向いて引き出しの奥から引っ張り出したレモンウッドダックで何年ぶりかでフェザーのバンチウィングの毛ばりを巻いてみて、こんな事を考えてみた。
思うにこの2〜3年の間はドライフライのウィングと言えばTIEMCO社の「エアロウィング」一辺倒だった。
浮力・視認性・堅牢性・タイイングの容易さのどれをとっても欠点がないように思え、しかもしっかり釣れるのだから、逆に使わない理由が見当たらなかった。
まあ、雑感その3とかでも書いたように、釣行前夜に巻くのならまだしもせっかくのオフシーズンなんだからシンセティックとは違うマテリアルのウィングを巻いて、自然素材の「巻き味」というか「機能美」などの再認識をしてみた。
ウッドダックのバンチウィング。開いているため短く見える。
エアロウィングは写真を撮るとファイバー同士が反射して多めに見えるが左の毛ばりは実際はかなり少なく取り付けたつもり。しかし、上のウッドダックと比べると明らかにウィングが目立つ。これ即ち釣り手にはありがたや〜の目印になるのだが、雰囲気的にはウッドダックのウィングのマダラ模様と細いファイバーの束の醸し出す繊細さというか透明感が図らずもカゲロウの翅を演出しているようにも思える。
ウッドダックは結構な値段だがタイイングしたときの収まりの良さはエアロウィングの比ではなく、今回何年ぶりかで巻いた時にその感触に「ああ、やっぱり名の知れたマテリアルっていうのはこうなんだ」って改めて感心してしまった。
エアロウィングはウィングの根元が幅を取る。
こうなるとタイイングし始めたばっかりのころに本とバイスを取っ換え引っ換え睨みつけながら巻いていたダッククイルのウィングを無性に巻きたくなるのも自然の流れ(?)。
で、巻こうと思ったけど予想通り引き出しにあるダッククイルは端っこの所しか残っていない。そそくさと駅前のフライショップへ出向き、なにやら鈍く光る11万円のリールを横目に500円のダッククイルを買う。
ダッククイルはうまく巻ければシルエットは文句なくカゲロウっぽくなるが、透明感はあまり無い。空気抵抗も大きそうだしウッドダックやエアロウィングよりも僅かに重いような気もする。
でかいか? しかし、水面のダンのウィングは・・・これもでかい。
次はヘンハックルティップのウィング。ダッククイルに比べて、透明感・空気抵抗・重量のどれをみてもこちらの方が秀でているようだ。人間の目から見るとリアルさも申し分なく、フライボックスにハックルティップウィングのパターンが並んでいると圧巻だ。
ただ、リアルで透明感もあれば視認性は逆に望めなくなって行く。それさえも釣れる毛ばりの条件となっているのなら、今後のフライボックスの中身に変化が起こるかも知れないが、果たしてそれはどうなのか?
ハックルティップならアップライトだけでなくスペントパターンもいい。
今回の話用に4本の毛ばりを巻いたが、ウィングを変えるだけでこれだけ毛ばりの表情が変わる。それぞれのマテリアルの魚に対するアピール度とか、「釣れる」度とかの違いにまでは言及できないが、エアロウィングばっかりを使っているよりはずいぶん目先も変わって久しぶりにタイイングを楽しめた。
もちろんこれからもエアロウィングだってたっぷり使って行くけど、ちょっとはウッドダックやダッククイル、ハックルティップなんかも使ってみよう。気持ち良く巻いた毛ばりで気持ち良く釣りに出掛けて、そして良型のヤマメを釣る。
あらら、言うことないじゃないの(ってそううまく行く訳ないじゃないの!?)