その22  スペントパターンの誘惑
このバランスを見る限りウィングはおしなべて大きすぎるくらいがいいようだ。
と、去年撮ったスペントスピナーの写真を見ながらバイスに向かう。確かに翅をべったりと水面に着けての流下はかなり水中の魚の目を引く事だろう。ダンやカディスが浮いたりしているシルエットは葉っぱの切れ端とたいして変わらない場合もあるが、スペントパターンのその形態はそれでしかないはず。
スペント(力尽きた)スピナー。ナンマイダ。
タイイングの本とかでスペントパターンを見るとかっこよくてつい巻いてみたりするのだが、実際川に立つと手が伸びるのはエルクヘアカディスだとかパラシュートだとか、がやっぱり多い。
「さぐり」を入れる毛ばりとしてはスペントパターンを本能的に選ばず、しかしここ一番の「切り札」的使い方なら登場願うことになる。 はて? この差はなんだろう?
切り札としての機能を考えると先述したその形態のアピール度からしても疑う余地はない。スピナーフォールなどの有無にかかわらず一度出損なった魚をスペントパターンで再度引きずり出したことは何度かある。
ただそれほどの実力のある毛ばりでも様子見のさぐりで使うのにはちょっと違うんだろうなぁ。
俗に言う所の「パイロットフライ」は結局それに適した素性というものを兼ね備えていると言う事なのだろう。
CDCの水面との干渉効果には計り知れない魅力が秘められている。
パイロットフライの素性というと視認性とか長く続く浮力とかティペットへの負荷の少ない投射性とかというのがある。ただ、そういう機能面とは別に、フライの格付け・・う〜んちょっと違うかなぁ、どう言うンだろう? 使いやすさと言えばいいのか、なんかそう言うのがパイロットフライに選ぶ理由になっている。
飛躍した例えで言えば、あまりにも親しすぎる人には言いづらい事がちょっと距離をおいている人にはさらっと言えちゃったりするっていう、あれです(ホントすげぇ飛躍している!)
シンセティックのウィングもスペントに結べば効果は絶大だ。
なんかそういう手が伸びやすいフライって物理的な機能の裏付けがなくっても「信頼」という保証書が付いていて、自薦他薦を問わないフライセレクトが信条の私にとってなんの迷いもなくその日最初に結ぶことが出来る。第一級の”さぐり”フライとして。
使い慣れた、浮き方・見え方・流れ方が「このフライで大丈夫だろうか?」という不信感を払拭し、その日の水中の動向をライン・ロッドを通して見せてくれる。
しかしここぞと言う時、翅を左右に大きく広げたスペントパターンを結ぶ時、それはやはり大物の気配がありありと感じられるポイントに対峙した時で、百戦錬磨のスレスレヤマメでさえスペントパターンの誘惑にはあらがえない。
などと、大物を釣り上げる空想にふける私は、はたと我に返る。目の前の慣れでなんとなく巻いたスペントスピナーは大きめのウィングを意識したのにもかかわらず、やはりまだ思いきりが足りないようだ。
もう一本巻くか。
やはりスペントと言えばハックルティップだぁなぁ。