其ノ二百九十三 大潮ミッドナイト
日没。潮流真っ最中の夕まづめに移動中(^O^;)
珍しく違う釣法の仲間と釣りに出掛ける事になった。
オフシーズン初の海は夜釣り。
エギでイカを狙う他のメンバーに混じって、フライロッドを振る僕は果たして無謀なのか?
人の車で釣りに行くことも稀なので、快適な釣りになるなあとのん気にかまえていた。
釣りに行くエリアは馴染みの島だった。食料やら通行券やら買い込んで、橋を渡った頃には暗くなっていた。
大潮の下げ潮を甘く見ていたかも。
今回のメンバーはみんな会社の同僚で、二人はかなり海釣りに入れ込んでいる。あとひとりはちょっとかじっている程度だが、ラインを切られたのは彼だった。
今回はイカを釣ってその場で刺身にして食べようという計画だったので、皿も醤油もワサビも用意している。僕は例の釣行夜食の用意までしてきていた。
ほかの釣り人も来たり帰ったりしていた。この港では全く反応がなかった。僕たちは隣の島へ向かって橋を渡る事にした。
最初の防波堤のある場所は外灯が点いていなかった。これではさすがにフライは無理。それでもごそごそしていたらイトが絡んだ。
しかも僕はライトを忘れていたのでどうにもならない。
仲間のひとりがエギをラインごと引きちぎられて持っていかれた。
ここではそれが唯一の反応だった。
次の港は灯がある。ようやくまともに釣りができる。
潮は満潮に近づき、風も出てきた。仕事終わりで直接来たのだから時間は選べなかった。
満潮が近づき、ますます釣れる気がしない。
途中何ヶ所か寄ったが反応なし。そろそろ満潮の潮止まりになる頃だった。
僕はもう灯りのないところでは釣りをするつもりはなかった。ようやくこの夜最終目的地の港に着いた。まだここにはほかの釣り人は居なかったので、僕たちは勇んで防波堤へ向かった。
大潮の満潮。たっぷりと海面がゆらいでいた。新月なのでわずかな外灯以外は漆黒の闇だった。それに加えて海水面が高いので、海からの得も言われぬ迫力を感じた。
エギチームも沈黙を破るものはおらず、刻々と時間だけが過ぎていった。僕は仕事の疲れか、次第に眠たくなってきていた。他の三人は平気のようだ。まったくタフな連中だなあ。
コウイカ ゲット〜!! 僕じゃないですが。
そして、鮮度抜群のお刺身をいただきます。
動きがあったのは下げの潮流が始まった頃だった。
午前零時を過ぎていた。ひとりが小さいコウイカを一匹釣った。釣り始めてから五時間は経過していた。
その後、もうひとりが一匹。ちょっとかじる彼もクサフグではあるが魚類を釣った。
僕も眠たがっている場合ではなくなった。時合いがきたのだ。
漆黒の水面にフライを投じる。カウントダウンしてリトリーブ開始。ここであることに気が付いた。
外灯から少し離れると、引きずり込まれそうな闇が待っている。
大型ダンベルアイのフライもフライラインもあっという間に流されていく。
大潮の潮流がここまですごいとは思わなかった。僕は下げ潮の流れは得意だと思っていたが、これは経験のないほどの潮流だった。
TYPE ll のシューティングヘッドなど歯が立たない。得意のはずの潮流はこの夜の僕の釣りの終わりを宣告するものになった。
僕はすでに仲間の釣ったコウイカの歯ごたえを想像していた。
イカをさばく仲間たち。夜明けまではまだ遠い。