渇水なら沢に潜る。
そんな考えもいつの間にか自分の中では薄らいできていた。
沢といえども渇水は渇水。実際およそ魚なんて釣れそうもない川をただ歩くだけの修業のような釣行になってしまった。

厚い雲が少しずつ切れてきていた。見慣れた山が雲の切れ間からちょっと見えているだけだと位置関係の感覚が狂う。
あの山はあんなに高いところにあったっけ? と僕はそれも含めた疑問と迷いに落ち着かなかった。
行かなきゃよかったとあとになってから思った超渇水の釣行から数週間が過ぎていた。
その間に300mm越えの降雨があり、この季節お決まりの天気頼みの条件改善が見込めた。
しかし今度は増水という問題が出てくる。沢に潜るんならこっちの時の方なんじゃないかなあ。
この日は試したいフライを巻いてきた。しかし釣行先の選定は水位次第であるからフライを試す余裕があるかどうか。
目指す支流。ここならと来てみたが釣り師なら考えることは同じようだった。
ビートルがこんもり丸い形なのはとっくに承知しいていたが、
それをどう表現するか? 答えはマシュマロに!?
やっぱし、なんというか、水多いなあ(^_^;
寄り道してるヒマはないっちゅーの!o(`ω´*)o
カディスに出たゴギは食いつくまでには至らず、水中に姿を消した。なかなか良さげなサイズだったが、もう一度出るか?
二投、三投、出ない。フライをCDCパターンに変えてみる。出ない。
よし、ここでだ。例のフライを試してみる。ひょっとしてわずかに残った可能性を潰してしまうかもしれないが、ここはやってみる。
雑誌に載っていたマシュマロビートル。実践初投入だ。
一投目、沈んだゴギが一発で出た。
奥に入るからクマがこわいな〜・・・って思っていたが、そんな心配は消し飛んでしまった。
目的の沢の分かれまでの区間に3台停まっていて、分かれで準備している時にも2台の車が通った。まず釣り師に間違いない。
みんな増水した川が引き始めるこの週末を待っていたのだ。僕も目的の沢にほかの釣り師が入る前になんとか釣りを開始すべく、準備を急いだ。そしてロッドを持って林道を早足で奥へと歩いた。この林道は荒れ放題でとても僕の車では入れない。
十数分歩いて決めていた場所から入渓した。水は・・多い。上から見るよりもだいぶ多く、でも歩けない事はない。それに多いとは言っても渇水よりは可能性は格段に高いはずだ。それだけでもやる気がみなぎってくる。
細々とした流れだがこれでも増水している。
空・山・川。シンプルな構成の風景だ〜。
やはり増水しているだけあってポイントがだいぶ消えている。
ひょっとして沈めたほうがいいのかも知れないと、入渓河川を考えている時と同様に迷いが出てきた。
マシュマロビートルはひとつしかない。ここぞと言う時だけさっきの強力な効果を期待したい。
狭い沢の引っ掛かりロストのリスクを考えて今はアントパラシュートを結んでいた。
数匹のチビゴギが出ただけで、マシュマロで釣ったほどのサイズは出てこなかった。
アジサイはこっちのやつの方が好きだなあ。
マシュマロビートル。効果はいったい?
この先、しばらく行くと滝がある。その下の流れがこの沢の一番のポイントだ。
僕はこの先の区間を飛ばして一気にそこを攻めようと思った。薮をかきわけ斜面を登っていると、後方に気配を感じた。
よく見ると僕が今し方釣り上がっていた流れに釣り人がいるのが見えた。
いったいいつの間に? 僕の姿に気付かなかったのだろうか?
でもこの沢に入る手前の状況からして後続者が現れることは十分考えられる事だった。
林道に上がり上流の滝を目指した。林道は荒れに荒れていて、伸び切った雑草に路面が見えないほどだった。
しばらく進むと滝の手前に出る事の出来る小さな支流があるはずだ。そこまで行くと小型の4WD車が停まっているのが見えた。

増水の流れではあったが石が洗われ歩きやすかった。
広い流れをのびのびとキャスティングした。なんとも気分がいい。
僕は沢を諦め下流の流れで仕切り直すことにした。ティペットには迷う事なくマシュマロビートルを結んだ。
むっとする草いきれ。沸く入道雲。どう見ても夏だった。