今回は葉ワサビとソーセージ入り塩ラーメン。腹いっぱい。
村道を歩いていると小さな碑を見つけた。家畜の魂を弔うもののようだ。
僕は碑に手を合わせ、次の川へ向かった。腹は多少楽になった。

ずいぶん前にもこの川筋でゴギを釣った。尾びれが赤かったのを覚えている。
お昼前、下流で釣ったヤマメも、昼食後に釣ったゴギも尾びれの赤い筋が印象的だった。
この赤色を見ると予想以上の渓魚のたくましさを改めて認識させられた気がして、僕はなんだかうれしくなった。
2014 釣乃記
第九話 尾びれの赤い力
小さな碑に手を合わせ、山里はゆっくりと時間が過ぎていく。
新緑に囲まれる流れ。天気よすぎて、さあどうでしょう?
こちらも力強げな赤い尾びれのゴギさん。
さあリリースするよ。このたくましい尾びれなら安心。
ひっそり静まり返って釣り人もいないようだった。
連休明け最初の週末はこのパターンが多い。連休で散々叩かれた川にもいい休息になる感じ。
でも僕みたいなのが入渓するんだから、完全休養とはいかないか。

朝の空気はヒンヤリしていて、いや、水もかなり冷たかった。
連休中よりもこの日の朝の気温は低かったようだ。これだとヤマメが動き出すのにはもうちょっと時間が掛かりそうな気がした。
陽の射していない流れは期待が持てず、少しでも陽の当たっているところを狙った。
しばらくしてようやくフライへの反応。ラインを長く出していたのでハラハラしながら取り込んだ。
連休の数々の攻めをかいくぐったヤマメ、ということか。ご苦労様。

少し上流へと車で移動した。更に水は冷たいかも知れないが、攻めるポイントが絞りやすいと考えた。
移動する間、釣り師らしき車は見なかった。やはり連休に釣行が集中した分、翌週はぽっかりと穴が開いたようになっているみたいだ。

ちゃらちゃらの瀬で小さめのヤマメが続けて釣れた。ここはそっとしとこうか。大きくなって上流へやっておいで。
そのあとの目ぼしいポイントは期待したほどの状況ではなかった。う〜ん、やはり連休明けは川もヤマメもひと息入れているのかなあ。
これ以上上流へ行くとゴギ域だ。今年はまだゴギは釣っていないが、この時期に釣るのはまだ早い気がする。いかにもゴギ釣り、と言う季節にこそゴギは釣りたい。
最初に入った支流でゆっくりとスタート。しばらくはフライを追うヤマメは現れなかった。

ウェーダーを通してかなり水が冷たいのだと言う事がわかる。
五月になってこの冷たさは標高の高い川では十分ありうるが、とてもじゃないがドライフライでは釣れないような気がしてくる。
連休中の何度かの釣りではこんな感覚にはならなかったから、この日は特別冷え込んだということか。
ツツジも咲いて水辺は華やかに。
山桜も少し残る里の小渓。川沿いの道は木陰で気持ちよい。
昼食の用意を始めてから小一時間経った。
いい加減、動くか。すっかり重くなった体を起こし、昼食セットを片づけた。

川へ降りる。もうこのまま帰ろうかとも思ったが、せっかくすぐ下にポイントがあるんだから。
小さな細いたまり。流れの落ち込みのあるところは木がかぶさっている。
その手前へキャスト。届かん。
もう一度、小魚がフライに出たが無視する。もう一度キャスト。
少し迷ったがゴギ域へ。決め手になったのはその辺りに昼食をとるのにいい場所があったからだ。
道路脇の木陰の空き地。昼食にはベストな場所だ。すぐそばを川も流れている。ゴギのポイントもあるのだが、道からそーっとのぞいてみてもゴギの姿は見つけられなかった。
手早く昼食の用意。ラーメンには里の店で買った葉ワサビとソーセージを入れる。なんやかんや食べたらすっかりお腹が太った。
すぐに片づけて釣りを、といきたいところだが、なにしろ腹が重い。木陰を風が吹いてなんとも気持ちよく、しばらくぼ〜っとしてしまった。こうなるとなかなか片づけが進まない。体がチェアに沈み込んでしまって立ち上がれない感じだ。