其ノ四百四十六  遠ざかるはずの夏
「こんにちは」と僕に声をかけてその若い釣り人は帰って行った。
この港の一番やりたい場所に先にいた人だ。その手前で始めようかと思っていたら、まるで心を読まれたみたいだ。
とにかく着くなり特等席が空いた。出遅れた分を取り戻さねば。
気になるのは空模様だ。今はまだ曇っている。日差しが出てきたらこの港の海面に影の部分は無くなる。
あれよあれよと言う間に晴れてきた。
二週連続の週末台風だったが、二度目の今週の台風は土曜日のうちにかなり遠ざかり、消滅した。
翌日曜日、満潮午前八時という微妙な時間の潮だったが、すんなり目が覚めたので近い島へ向かった。
風が少しある。ほぼ満潮の時に着き、最初に寄ったドクターヘリのポートの港はコツリともしない。
以前もこうだった。どうもこの港とは相性が悪いようだ。
フライロストは過去最多?。ダメージは小さくない。
そしてやってきたこの港、若い釣り人のいた場所を引き継いで始めたが、だんだん風が強まってきた。涼しいそよ風とかではない。先月、先々月を思い出させる熱い風だ。
防波堤の先にいた人がまた一人帰り支度を始めた。ほかにも数人いるが、みんな満潮前からやっていたのだろう。ということは夜明け前からかもしれないな。
数投するうちになんかヘンだと気付いた。フライがついていない。昨夜巻いたばかりのヤツなのに。僕はまたフライを結んでキャストした。ここは上に電線が通っているので、サイドキャストするしかない場所だった。以前ここで釣りをした時はロッドは9ftを使った。この日は特に何も考えず11ftを持ち出していた。
フライを結び直しての一投目、グィグィっと小気味よい引き、アジだ。
ポンポンと3匹続けて釣れた。群れが回遊してきているのか。なら今が攻め時だ。
更に勇んでキャストした時、バチっと感触がした。ティペットがキャスト時に切れていた。

スッと陽が射してきた。一気に暑くなった。海面にもギンギンに日が当たってきた。
久々のアジ様。小さめだけどパワーはありますね(^^;)
全く10月の空じゃないな(>▽<;) 何年ぶり(?) ちりめん丼いただきます(*^^*)
曇っているうちにもっと何とかすべきだった。これはもう釣れる気がしない。
気が付くとまたフライがなくなっていた。11ftでサイドキャストはティペット部に負荷がかかりやすいようだ。

「フライでやっている人、初めてみました」と夫婦連れの釣り師の旦那さんの方が話しかけてきた。「フライで釣ってるよ。スゴイ」と奥さんに話している。こういう言われ方もなんだか久しぶりだ。
こちら二年ぶりくらいのカマス様。群れではないのですか?
夫婦連れ釣り師も帰っていき、時刻を見ると11:30。まだそんなもんか? とっくに午後2時くらいだと思ってた。
バテてきたので少ししゃがんで休んだ。もう止めてもいいかなと思い始めていた。
不意に陰った。雲が流れている。もうちょっとだけやろう。僕はやりにくいサイドキャストをしリトリーブした。
何かに引っ掛かった感触から急に走り出した。水面に現れたカマスに、僕はまだこの島は夏なのだと気が付いた。
10月初旬、まあでもこんなものかもしれないなあ(^^;)