2018 釣乃記
第十三話  静かに過ぎていく夏
沈み石の前側についていたようだ。フライを追って白い魚体がうねった。
一度合わせ損なったらもう出ない。ヤマメだな。
居るには居る。よもやボウズなんてことだけにはならなくて済みそうだ。

ここ数日のレーダーを見ていると、短時間での夕立が頻繁に降っている。いい感じの水量なのを期待していたが、川はいたって平水だった。カラカラの渇水でないだけマシか。
静かなのは魚の活性もか!?
釣行と同じく二ヶ月振りのもぐもぐタイム。
あきらかに季節が変わった。夏と秋の間の空。
約二ヶ月振りの渓。釣り場に到着した時は気温18度だった。
猛暑ではなく酷暑という言葉が当たり前に使われていた今年の夏。終わりの見えなかった暑さにも、ついに変化が現れたようだ。
少し風が吹くだけで、極上の気持ちよさに包まれる。ほとんど汗もかかない。町ではまだまだこうはいかないだろう。
でもまだ一匹も釣っていない。この快適さも釣果があってこそなのは、釣りに来た者の逃れられない宿命だな。
去年の今時期に今回と同じ川に入った時、サイズはともかくテンポよくヤマメが釣れた。フライはCDCライツロイヤルだったはず。今回はそれは持ってきていないが、パラシュートアントとCDCマシュマロビートルを巻いてきている。
水位も同じ感じだったと思うから、去年のライツロイヤルの方が有効だったと言うことかも知れない。まあ、この段階で何を言っても今もっているフライで何とかするしかないのだが。
川沿いの道を通る車は、釣りの途中に地元の方の軽トラが一台通り過ぎた以外は全くない。川の流れる音と風が木々を揺らす音、そして蝉の鳴き声だけが聞こえる。
魚影が見えた。しかも二匹っ!
フライが消えて僕は合わせた。忘れかけていた魚の手応えがグッと伝わった。引き寄せるともう一匹がついてきている。
(なんだ?)と思いながら掛けたヤマメをネットですくった。

僕はホッとして川原に座り込んだ。少しの間、川や風の音が止み、蝉の鳴き声も消えた。
ヤマメをリリースすると止んだ音がゆっくりと戻ってきた。
夏もゆっくりと過ぎていくようだった。
午後の区間もあと少しで終わってしまう。二ヶ月振りに釣りに来てボウズ!? 決してヤマメがいない訳ではなかった。しくじったのは僕だった。
全く不甲斐ない。せっかくの極上の涼しさも釣果0では手放しで気持ちよく思えない。逃れられない宿命だな、これは。

これまたいい感じのポイントが現れた。おそらくここが最後。何度出ても賭け損なう、その理由を考える。でも思い当たらない。僕はキャストした。
木々が影を落とす、夏の通り道のような。
最後の最後にヤマメ様。どうなることかと思ったけど(^^;)
カーブフックで巻いた二種。フッキングは良いと思うのに。
出たっ! 空振り。もう何回目だろうか。ヤマメは間違いなくいる。しかしフライに掛からない。警戒しつつ確かめながらフライに出いているのだろうか?

あっという間に昼に近くなっていた。入渓した区間は道から離れる前に脱渓しないと戻るのが面倒だ。
結局出るだけ出て一匹もフッキングできないまま車へ引き返す事にした。
久々の川歩きは堪える。まずは腹ごしらえをして作戦を立て直さねば。
場所を少し下流側に変えた。最初の区間と違い、わりかた日が当たっているポイントが多い。
さすがに昼をまわると渓流沿いであっても日なただと暑い。
昼食時の気温は24度だったからそれでも町から比べると快適なのは間違いないが。
午後の区間は渓相はかなりいい。クモの巣もなくなっているしブヨも来ない。
でもヤマメの気配はなかった。丁寧にフライを送り込んでも、ここはというポイントでも、水しぶきが上がる事はなかった。