2018 釣乃記
第十四話  翔ぶヤマメ
鈴の音が聞こえた。
前方で川と交差する道路の橋のあたりで人影が見えた。橋の下の溜まりをやっているようだ。
僕は驚かすのも悪いから少し待つ事にした。おそらくこの支流に入っている釣り人は僕とその人だけだろう。

一週間前の二ヶ月振りの釣りは涼しく快適な釣りだった。今回はその気配は全く消えていて、すっかり夏が舞い戻っていた。
川の状態も良くはなく、苦戦が容易に予想できた。
しっかり暑い。正統な残暑が始まった。
新発売の鶏つくね豚汁めしはなかなかのもの。
夏の終わりの恒例、 ロッドティップの赤とんぼ。
先週の極上の涼しさの釣りを今シーズン最後にすることもできた。
禁漁前最終週の週末にやってきて、まかり間違ってボウズにでもなったら台無しだし。
それでもやっぱり行っておくかという気になったのは、先週の辛うじての一匹では満足できないからだった。
釣れるか釣れないか、かなりリスキーだが、行かなかったら間違いなく釣れない。
禁漁前の週末なのに、川はひっそりしていた。
二ヶ所釣り歩いて反応はなくはない。しかし掛からない。フライ(#12)が大きすぎるのか? 小さいフライは用意してきていないからこれで行くしかない。反応の主もだいぶ小さいヤマメっぽい。
橋の釣り人は上流へ向かったようだ。僕は橋まで川を歩き、橋のところで道路に上がった。そこに軽自動車が停まっていた。
下流側に停めている僕の車まで戻った。車を停めているところが木陰なのでこのまま昼食をとることにした。上流は釣り人が入ったので、ここからさらに下流側をやるしかない。僕は湯を沸かしながら有望ポイントがないか頭を巡らせた。

今季は釣りの昼ご飯はカップのものが多かった。楽は楽だが手抜き感は否めない。昼寝もできる時はやった。これがとても気持ちいい。少しの時間でも寝れたら、そのあとの釣りのリズムも変わって釣れる事もあった。
毎年一回やってくる禁漁の時。終わる時が来るから緊張感もあり密度の濃いシーズンになる。
そう思うとラストの釣行はやっぱり特別だ。そしてできるなら最後に魚の顔を見たい。

ヤマメが翔んだ。なにを思ってか、水面から高く、二度三度。
結んでいたフライをそのままキャスト。一発で出た。そしてフッキングした。
水中で魚体がうねった。これで来年の解禁に向けていける、と僕は思った。
焦りはないが、現時点で釣れていないのは事実。やっぱり先週をラストにしておけば良かったのではないか? という気持ちも沸いてくる。
通過区間横の流れは初めて入る。おそらくほかの釣り人も同じような傾向ならば、竿抜けの可能性はある。
すぐにフライに出た。空振り。ここでも掛からない。フライを変えるか沈めるかしないとダメかもしれない。
と、少し先の小プールでドボンと音がした。なんだ?
川に身を置くことも、しばらくは休憩。次は海だな。
ヤマメの行動にどんな意味があるのか? わからないから釣りは面白い。
すやすやタイムは涼風でさらに快適に。
今回も数分、いや数十秒ウトウトとした。その間に上流の釣り人の車が通った気配はなかったので、まだ粘っているのだろう。
僕は昼飯を食べている時に思いついた場所でやってみる気になっていた。
時刻は昼を回り、気温もぐいぐい上がってきている。アブラゼミがうるさく鳴き、暑さを加速させている。
思いついた場所はいつもは通過するだけの道の横を流れる川だった。
先週よりも夏らしい空。