其ノ四百四十八  島の昼寝と騒がしい夕まづめ
「フライですか? 初めて見ました」
きたきた〜。秋口から冬にかけてが、フライを珍しがる人の声かけが増えるな。
しかしこの人、近い。このまま僕にべったりひっついて釣りするつもりか? と思ったら離れていった。
その直後、腹の張ったベラが掛かった。本日一匹目。
日はすっかり高い。来て早々にアレだけど、苦戦しそうな気しかしない。
ベラの仲間のようだけど、この模様のやつは初めて。
満潮で昼過ぎ干潮。僕の苦手な潮だ。早起きで朝の満潮に間に合わすのはたぶん無理。日中は干潮と日差しでまず釣れない。
するとあとは夕まづめしか可能性はないことになる。

なんとかベラ釣ってボウズはないが、ないというだけ。そのあとチビメバル様もかかってくれたが、テンションが上がるほどではない。
風はあるが寒い時期の強風に比べたら大人しい方か。
港の木陰ですやすやタイム。 干潮の港は穏やかに静まり返って。
この日の島の防波堤は潮が落ちると一段下の石積みが海面に出てきて、石の表面の蛎殻にフライやラインが引っ掛かって釣りにならない。僕はここを切り上げる事にした。時刻を見るとまだ昼前だった。
なんだか妙に疲れた。微妙に早起きだったし、前の夜も早寝という訳でもない。とりあえず昼飯。海岸で湯を沸かし、気に入っているカップめんの新バージョンを食す。
このあと釣りするなら前回行った、アジとカマスを釣った港が近いと言えば近い。しかし日中の干潮ではさすがにダメだろう。夕まづめまでまだ四時間以上あった。それまでに何かする事があるとすれば・・・寝るしかない。
車の中で寝たにしてはかなりしっかり寝た。木陰のそよ風の音だけしかせず、なんとも気持ちよかった。
前回の港は来た道を戻って途中で橋を渡っての隣の島。

それでもまだ日没までは二時間ちょっとある。でもじっと待ってる訳にもいかず、結局釣り再開。
数投したが全く反応なし。やっぱりな。まだ日没まで間がある。ゆっくり探りながら日暮れを待つしかない。
AFURIは柚子塩もうまかったが柚子醤油も秀逸。
しばらくすると年配の女性がやってきた。釣りではない。バケツを持っていた。少しして小さな漁船が一艘帰港してきた。漁から帰ってきたご主人を迎えにこられたようだ。ところがご主人と何やら話して、女性は先に帰ってしまった。よくわからないがせっかく迎えに来てたのに。なんだか色々あるな。
やがて日が傾き、ひとりふたりと釣り人がやってきた。僕の隣にも若いエギングの人が来て釣り始めた。
徐々に満ちてくる海と高まる期待。
「これは鉛つけずに飛ばす釣りじゃ」と、スクーターでやってきた年配の人が船の手入れをしていた別の人に言う。
「なんか釣れたか?」と今度は僕に話しかけた。
「いやあ、これからです」
確かにこれからだ。日が沈んだ。さらに数人の釣り人がやってきて、僕の周りは昼寝の時の静けさとはうって変わってかなり賑やかになった。
かなり海面が見えづらくなった頃、連続でロッドを曲げる最初の一匹が掛かった。
夕まづめの金アジさま。うっすら金色に輝いて。