其ノ四百四十九  千切れる雲と極小の釣り
準備をしていると、スッと一台の車が入ってきて、ぞろぞろっと三人の若いエギンガーが降りてきてすぐに防波堤へ向かった。
(は、早っ!) 彼らは僕のやりたかった場所(防波堤付け根あたり)に陣取った。こればっかりは早い者勝ちだ。でも車で到着していたのは僕が先だったのに。
仕方ないので彼らの先の防波堤の中央くらいで始めることにした。
一匹目のメバル様。ひと月ぶりのナイスサイズ。
それにしても風が強い。予報でも言っていたし、来る途中のコンビニでも旗のはためきようが尋常ではなかった。
これからまた三回に二回は強風の釣行になっていくんだろう。それは覚悟しておかないと。
エギンガー三人の他に、この七つの橋、四番目の島の中央港には二人の釣り人が先端の方にいた。
みんなこの風に耐えながら各々の釣り方でやっていた。
雲が千切れ翔ぶ。風がやっかいな季節になってきた。
ぐぅ〜ぃい〜っと、鈍くロッドに感触が伝わってきた。強風でロッドが押されるからわかりにくかったが、メバルが掛かっていた。
良型メバル様、これはエギンガーにやりたい場所をとられたから釣れたとも言える。

風は弱まる気配はなく、防波堤先端付近の二人も帰って行った。
エギンガーの三人もそわそわし出した。彼らも移動するようだ。
釣り終了後のもぐもぐタイム。奇跡的に無風の公園で。
この日良型メバルを釣ったフライはビーズ+シラスファイバーの#14くらいのフライだった。たいした時間、釣りをした訳でもなく移動していったエギンガーの場所も、そのフライを流してみるがコレと言ったアタリはない。
潮はもうすぐ満潮というところ。満潮前から満潮にかけてがこの港は良い。そして潮が下がり始めると釣れなくなる。良い時間は今も含めて非常に短い。
この日は風の事を考えて、最初から9ftのロッドを使っていた。少しでも短いロッドの方が風の抵抗を受けにくい。リーダーに繋ぐティペットも4Xのリーダーに6Xを少し足すだけで、絡みのトラブルを減らすシステムにしてみた。しかし短く太いティペットは魚たちに見破られやすいリスクはある。
新たに三人連れがやってきた。若いカップルと年配の男性。察するに男性の娘さんとその彼氏、というところだろうか? ま、関係ないけど。
彼らは風を避けてコンクリートの壁のあるところに荷物を広げた。僕がやっている場所に微妙に近い。
年配の男性が缶ビールを飲み始めた。こんな強風の中でよく飲めるな〜、と思ったが彼は実にうまそうに飲んでいた。
結局今回もこのフライに頼ることになった。
男性のビールを見ていたら、ぐっぐ〜っと感触が伝わってきた。
ちょっと前から#18のビーズヘッドのみのパターンに変えていた。それにきた。
海面の上は風で荒れに荒れているのに、海の中ではこんな小さなフライが有効なのか。水面に現れたメバルはまずまずの型だった。

「なにですか?」と声がかかった。年配の男性からだった。
釣りを終えるまでは、ほぼ風の止み間は無し。
「メバルです」と答えると
「フライというやつでしょう? 難しそうですが、楽しそうですね」と言われた。「私はこれが飲めればいいので」と、缶ビールで乾杯の仕草。
「昼間に海で釣りしながら飲むのって、最高ですね」と僕は答えた。
ふむ、僕が楽しそうに見えるんだ。なんだか悪くない。
強風は雲を千切りそれまでにも増して吹き続けたが、極小フライも負けていなかった。
これだけの強風の中の連続ヒットは初めてかも。