其ノ二百八十三 注文の多い防波堤
どりゃあ〜っ!! 四国に向かってキャスト〜o(`ω´*)o
「ちょっと見させてもらっていいですか?」
ん〜!? 久しぶりに興味本位のやじ馬が登場か?
軽トラで通りかかったその人は防波堤に上がってきて僕のフライを見たがった。
「ほほう、ダンベルアイに魚皮、アンダーウィングはクリスタルフラッシュ。シラスのパターンですね」
なっ!? なんだ? こやつ、ただ者ではないな!!
この島には日中の表層でも釣れるとっておきのポイントがあった。早速そこへ向かう。
予想通りメバルが群れているのが見えた。僕はすぐさまキャストした。しかしフライにアタックしてくる気配がない。
渓流のフライを巻くのに忙しい時期だが、時間を割いてせっかく昨夜巻いてきたシラスパターンなのに見向きもしないとは。フライはsnaphookを使ったものだし、去年はこれがかなり反応が良い時もあったのに。
ただ去年のパターンとは巻く度にちょっとづつ違ってきていたのは自分で気付いていた。
この日の島へ。あと橋を何本渡る?
「実は私もフライをやるので。海でフライされているの、珍しくて見させてもらいました」
と彼は言った。
もうすぐ解禁だということで、しばし話し込んだ。この人が釣りに行っているエリアは僕も行っていて、意外な共通の事柄があることに驚いた。
思いがけずこんな瀬戸内の小島で渓流のフライをするもの同士が出会うなんて、なんだか気分が良くなった。
車に乗り込み移動した。橋をまたひとつ渡り、この日の本命の島へ向かった。
さきほどの海岸もそうだったが、この日はびっくりするくらいに風がない。こんなことはこのオフシーズンでは初めてだ。
無風だと日差しがそのまま届くようで、まるで春のように暖かくなってきた。
ならばいけるか? 春メバル。
この島への期待が1段階あがった。
去年のsnaphookを付けるパターンはフックはアイが縦面に穴が開いているようになったものを使っていたが、それがなくなったので取り合えず釣り具屋にあった通常の水平面にアイの穴が開いているフックを買ってきて巻いていた。
このアイの向きの違いが、水中でのアクションに大きく影響しての結果なのか? 納得いかんなー。
とっておきポイントは諦めて、別の防波堤へ向かった。突端には数名の釣り人が見える。
不意にスクーターが走ってやってきた。防波堤の中間くらいに立っていた僕の手前に停めるとその人は歩いてこちらに向かってくる。
「なにが釣れますか?」と聞いてきた。・・・今日はなんだかお客さんが多いな・・・。
「はあ、メバルとか狙ってますが」
「そうですかー。突端の人たちも藻エビでメバル釣ってますが小さいですね。・・・んっ?」
その人は僕のロッドを見てなにかに気付いたようで、急に色めき立った。
「いやあ、フライでメバル釣るのは聞いた事あったけど初めて見ました。釣れたら写真撮らせてくれませんか?」
息なりその人はそう言った。僕はいぶかしんでその人を見た。
「あ、私、【釣り○○】のものです。」とその人は聞いた事のあるローカルの釣り雑誌の名前をあげた。
「いつ釣れるかわかりませんよ。今日は釣れないかも」と言うと、それなら僕の写真だけでも撮らせてくれと言う。
「そっちは逆光だからこっちで。あー、そうそう、そういう向きで顔はこっち向いて」
さんざんしゃべって写真撮って、その人はスクーターで去っていった。
やれやれ、なんだかくたびれたなあと思いながら投げたら呆気なくメバルが食いついた。
くやしいが自分のフライは諦めて市販のカブラを結んでいた。
漁村沿いを走るスクーターのエンジン音が島の入り江に響いていた。
いつもの島の漁村へ。静かだ〜。誰もいないの?
静かになった防波堤。そして島から北部の川へと想いは移る?
今年、川が禁漁になるまで、このロッドは休息です。
このオフシーズンもお世話になりました。また半年後に。