其ノ四百六十  日食と満潮の島
(空いてる空いてる)僕は取るものも取り合えず防波堤の定位置を陣取った。
好きな港の場所、大潮の上げ七分、そしてもうひとつこの日の釣りに期待している条件がある。
「どうも〜」と声がした。小さな女の子、あ、確か少し前にこの港で「何が釣れますか?」と聞いてきた子だ。
僕はどぎまぎしながら会釈した。僕の事を覚えていてくれたんだ。
Appleのリンゴマークくらい欠けている。
ほかに何人かの釣り人が居るが連れ立って来ている仲間みたいだった。
女の子のお父さんはそこに混じっているが、ほかの釣り人とは別口で来ているようだ。前回もいた女の子の弟君も今回もいる。

釣り座は確保したし、雰囲気のいい釣り人たちもいるし、今回は落ち着いてじっくりと釣りができそうだ。
この時点で釣りの半分が成立したと言ってもいい。
あれほど苦戦した初釣りとは、うってかわって明るいうちに。
初釣りでことごとくタイミングをはずして釣りができなかった場所、七つの橋の四番目の島の中央港の防波堤。どうにも気持ちの収まりがつかず、数日後にまたやってきた。初釣りでできなかった好きな場所でやることももちろんだが、初釣りの時はイマイチだった潮もこの日は大潮だし、しかも上げ潮の時間帯が部分日食と同じだということも島に出向く大きな大義になった。
部分日食が海中の魚にどう影響を与えるのか? 与えないのか? 少なくとも普段とは違った滅多にない条件であることには間違いない。
麻婆麺、辛味と豆腐がよく合ってます。 やっぱりなんとなくちょっと暗い?
僕が釣り始めた時間はすでに太陽が欠けているはずだった。直接見るのはダメなので、デジカメで露出アンダーにして撮ってみると、確かに欠けている。そう思って周囲を見渡すと、気持ち薄暗いような気もする。きっとこの日が部分日食だと知らなかったら気付かない程度の暗さだ。おそらくこの防波堤の釣り人の誰もが気付いていないのではないだろうか。
そして一投目、アタリはなかった。そううまくはいかないか。でもやりたい場所でやれなかった初釣りの時のストレスを考えれば、この日は十分満足できるシチュエーションは整っている。
二投目、アタリなし。三投目、なし。最初のうちが一番チャンスがあると思っているから、投げる度に不安になる。
女の子と弟君が防波堤を走ってきたり戻ったりしている。手加減なしの全力疾走だ。もう僕はあんなには走れないなあ。
お父さんはというと、これまた相変わらず釣りに集中している。
と、ぐぐーっときた! 僕が自分の釣りから注意を逸らした途端にきた。
まあまあのメバル。初釣りの時も二人連れの釣る様子を見て思ったが、まだここはこんなものじゃない。
日食終わり。普段と変わらない風景が。
ほぼ満潮になり、潮流も止まったようだ。
期待していたほどの変化はなかったか。と、リトリーブしていたラインが引けなくなった。
(引っ掛かったか?)とそのまま強く引くとググッと逆に引っ張られた。何か掛かったっ!
おそらく今、欠けた太陽が元に戻ったはずだ。そして水面にこのポイントでこそのメバルが姿を見せた。
やっぱり自信のある場所でなら、そういうメバル様がいらっしゃる(*^^*)