2014 釣乃記
第拾七話 群雨とゴギの一日 後編
そしてようやく帰路に着く。ま、ゆっくりまいりましょう。
木々の枝葉が傘になるはずが、能力オーバーのようですσ(^_^;)
I のゴギ。野生の顔をしていやがる。
川の様子はいきなり平坦な流れに変わった。
帰ってから地図で見てわかったことだが、川を何本も等高線が横切る区間が1,000m級の峰の横を過ぎたら急に平坦になっている。
一番川が険しいところは1,000m級の山に両方を挟まれ標高を一気に駆け下っている地形のようだった。
それに比べその上流側は周囲の等高線の間隔がややゆるい。
その様子は川を遡ると一目瞭然だった。
林道から降りる時の垂直降下、そして滝の区間の岩登り、僕はなんだか懐かしい感じがしていた。
この釣りを始めた頃、そうそう、よくこういう冒険釣行のような釣りを Y としていた。険しい場所を好んで探して。そういう場所を乗り越えた先にすごい釣りの出来る場所があると思っていたのだ。
実際にそういう場所があったこともあればなかったこともある。でもその険しい場所を乗り越えた達成感だけでも僕と Y はけっこう満たされていた。そして次はどこへ行こうかと、すぐに頭を巡らせていたのだ。
今回 I がここへ来たいと言ったことが、単に雨で高活性となったゴギを次々と釣ったことよりももっと心躍ることに導いてくれたのだと、僕はそんなふうに思った。
ゴギの活性の度合いは、いったい何で左右されるのか?
滝区間を越えてから降り出した雨は結構な激しさとなった。
これが滝の手前で降られていたらと思うとゾッとする。
入渓のルートだけでなく天候の読みでも僕の判断は甘かった。たまたまタイミングがずれて助けられただけだ。

I が良い型のゴギを釣り上げた。ずいぶん小さなスポットのポイントでだ。
そのあと僕のロッドにも Y のロッドにもゴギがかかった。
雨の降りようがゴギを目覚めさせたのか?
五月にM川氏と来た時とは斜面の木々や下草の茂り方が全く違う。
ここから先の林道との交点までは川はフラットなままのはず。僕はこのまま川を行くことにした。
水はみるみる濁ってきた。さすがにゴギの食いは止まった。
橋のガードレールの白い色が見えた時、僕はやっと釣りをやめて上がれる、と安堵の溜息が出た。
Y と I ももう十分釣ったという表情で、それよりもこれから車までの長い帰路を嘆いていた。
そうだった。僕は冒険釣行につきもののそのことをすっかり忘れていた。
もう笑いが出るくらいに雨が叩きつけてきた。さすがに僕たちはこれはヤバい状況なんじゃないかと思い始めた。
まだゴギの反応は鈍ってはいなかった。とはいえ身の危険を感じてまで釣りを続ける訳にはいかない。
気が付くと気持ち水も濁ってきている。僕はこのまま行くと林道が川と交差していることをふたりに伝えていたが、果たしてそこまで行くべきか? ここから斜面を無理やり登って脱出するべきか?
ここでまた判断をする状況になった。
降る降る。エスケープポイントまで、もつのか?
浅い流れでオレンジ色の腹がうねった。こんな場所で?
僕のロッドを曲げるゴギは下流へ走ってフックを振り切った。
しかし口惜しさよりも驚きと興奮が勝っていた。どうなっているんだ、こりゃ?
短い浅い区間にいったい何匹居るのか? こいつら普段はどこでどうしているのか?
Y も I も途切れずゴギを釣り上げた。雨も止む事を知らず降り続いている。
そして誰も帰りのことを口にはしなかった。
ついに、川の水がこんなことに。
僕はこのO君にもらったスパイダーパターン一本で通した。