そもそも問題はフライ不足にある。今年のフライボックス内のフライの枯渇は尋常ではなかった。
なんでもっと巻いてこないのかと来る度に思うのだが、川にきてから思っても仕方がない。
週末に釣りに行こうと思っている場合、水曜日くらいからそわそわ落ち着かなくなり、木曜日には少し巻いておこうか、金曜日は気合いを入れてたくさん巻こう、という具合に考えている。
で、実際には一本も巻かない場合がほとんどだ。
2014 釣乃記
第拾参話 なくしたアントのあとの事
さあて、アントがなくてもまだまだ釣るよ。
ニャンコ先生にあいさつを済ませ、今日もここからスタート。
このアントさえ残っていれば〜(>_<)
決して早朝という訳ではなかったのに、川へ入るとえらく暗かった。
空はどんより厚い雲におおわれていたし川も深い谷だったので、まあ暗いのはわかる。偏光グラスをしたままだと光量が足りなくてフライが見えない。
水はいい感じの気持ち増水だった。やや暴れ気味の流心でフライをこそぎとる残像。あっと思って合わせたが遅いか!?
いや、フッキングしていた。入渓して二投目だった。
水面での捕食がむつかしげな状況なのか? と思えるような出方が何度かあり、掛け損なったりバラしたりが続いた。
時折雨が落ちてきていた。先週に引き続き今回もまた降られるのかなあ、と空を見る。

フライは最初の一匹が半沈みのアントだったから、それ系のパターンがいいようだった。
これは一本しか持っていない。慎重に使わねば。
と、そう思っていた矢先にいきなり引っ掛けてしまった。
どちらかと言うと高く浮かせるパターン。
あまり大場所がないとキャスティングでストレスがたまる。
このチビゴギに救われた?
残念ながら回収不可能。
あとは半沈みのパターンっぽいのはキュウシュウジカボディヘアウィングのカディスだけだ。
カーブしたフックにカディスを巻いた形だから希望は残っている。
後方を何度も確認しながらのキャスティングが続いた。
ヤマメの反応は薄くなった。やっぱりアントが効いていたか。
だんだん今結んでいるカディスに自信がなくなってきた。
半沈みではないフライに変えてみたが予想通り反応なし。
こうなるとやっぱり今日はアントだったんだと余計に思えてくる。
半沈みのカディス。これもイマイチか?
この一匹のあとが問題だった。
不意に辺りが明るくなった。
少し日が射してきていた。ぱらぱら落ちていた雨もすっかり上がっていた。フライもずいぶん見やすい。この光量の具合でも魚の活性は変わってきそうだ。
気分を切り替えるためにフライも変えてみる。フライボックスの隅まで探すと、カーブのフックではないがアントが出てきた。
「あっ!!」 取り出そうとつまんだアントを僕は流れの中に落としてしまった。
僕はひとつ息をついて別のフライをティペットに結んだ。
そんなこんなで古いフライボックスからなんとか使えそうなやつをピックアップして持ち出すことがやたら多くなった。
今回のアントもそのうちの一本だったのだ。

もう一度半沈みのカディスに戻す。少しレーンから外れたっぽいところに着水した時、茶色い魚体がうねって食いついた。
いつの間にかゴギとの混生域に達していたか。時間もだいぶ経っている。ヤマメやゴギの食いの様子も違ってきているかもしれない。