2014 釣乃記
第拾八話 その夏は終わらない
夏の先にある渓。源流も空も近い。
さて、この先どんな釣りが待ち受けているのか?
同じポイントで続けざまにゴギが釣れた。僕、Tさん、Sさんと徐々にサイズも大きくなった。
(こりゃあいい。魚はしっかり居る。)と僕は内心ホッとした。
「今日は数釣りにしますか? それともサイズ狙い?」とTさんが言った。
サイズを狙って良い型が出る川かと言うとここはどうだろう。微妙かも。
とりあえず釣りましょう、と僕はまあ当たり前のことを言った。
いつの間にか空は青く晴れていた。
TさんとSさんとはともに初めて一緒に釣りにきた。どういう経緯でこういうことになったかと言うと、釣具屋で一緒に行こうという話になったという、そういうことだった。もちろんこのお二方とは以前から顔を合わすとあれこれ話をする仲だった。
それにしても今年はなんでだかこの人と初めて一緒に行く、というパターンが多い。
今回は僕の車で、僕が提案する川へ、という運びとなった。道中の林道が荒れていやしないかと心配したが、無事に川まで辿り着けた。すぐに先行者の車があり、僕たちはかなり上流へ移動してから入渓した。
最初の三人三匹以降、沈黙が続いたがそれもじきに破れた。サイズは今一つだが少しづつゴギが姿を見せて来始めた。
短い区間にたくさんのゴギが居ると、大きくはなりそうもない(^_^;
幸先のいいスタートだと思いきや、そのあとが続かなかった。
なんだ、ぬか喜びか? と高まった期待を押しとどめるような感じになったが、気落ちするのも早すぎる。
SさんのGPSによるとここから少しの間、両岸が岩盤に挟まれた険しい区間が続くようだ。
僕の記憶でも確か高巻きが必要な場所があった・・・と思う。
SさんのGPSは初めて入る川ならかなり心強い味方になることは間違いないようだった。
Sさんが良型を釣った。サイズを期待していなかったから僕もうれしかった。しばらく釣り上がって今度はTさんも。
よーし、この川にふたりを連れてきてまずまずの結果が出てよかった。じゃあ次は僕も。さっきのバラしは忘れて目の前のポイントに集中する。
一投目、一発で食いついた。バラし!
二投目、また食いついた。バラし!!
三投目、まさか食いつくまい。食いついた! バラし!
いやー、これはイカン。いかんでしょ。どんだけバラすんだ、僕は。
Tさんに代わってもらった。Tさんは一発で釣り上げた。結局全部同じゴギだった。何度ハリにに当たってもまた食ってくる、そんなおおらかなゴギ、そして釣り。
なんだか久しく忘れていた。

またSさんが良型を釣った。一匹釣ったら交代しているから良いポイントに順番がまわってくるのは運だ。そして慎重にゆっくりと攻める彼の釣りは確実に良いポイントで良いゴギを誘い出していた。
Tさんは動きに無駄がない。テンポのよい釣りは見ていて気持ちがいい。そして狙ったポイントからゴギを引きずり出す。Sさんとは好対照の攻めのフライフィッシングだ。
標高の高いこの川にはクモの巣がほとんどなかった。ブヨも寄ってこない。というか居ないのか?
蝉も鳴かず、今年の雨の多かった七月〜八月を思い返して、僕は夏らしさをあまり感じない年だったなあと思った。

クモは居ないのにスパイダーパターンでいいのか? とも思ったが反応がいいので使い続けた。
フラットな流れでフライが消えた。合わすと動かない。石に引っ掛かった? と思ったら動いた。
(でかい!)と意識した途端バレた。ああ、口惜しい。
ペースが上がってきた。行きましょう、お二方。
予定通りの高巻きポイントをなんとかクリア。この先には険しい場所はもうなかったはずだ。
Sさんがポイントを見定めている。じっくりと見ている。本当にじっくりと見ている。
Sさんはそういうスタイルの釣り人だった。
逆にTさんはテンポが早い。粘る時には粘るが、見切ったらすぐに次のポイントへと移動する。
その思い切りがいい。
ふたりの釣りを見て、僕も良い所を吸収させてもらおうと思った。
気が付くと青空。なんだかずいぶん久しぶりのような気がする。
ゴギはその源へ戻っていく。・・また来年。
僕はと言えば相変わらず釣りが荒い。慎重に攻めるべきポイントも無造作にキャストして掛けてバレて。そして反省。
それにしても初めてのふたりと一緒にこの高地の川にきて、こんなにもにぎやかなゴギのもてなしを受けられるとは思っていなかった。
SさんがGPSをチェックする。まだまだ川の流れは続いているようだ。どこまで釣りが可能か?
ゴギの気配は衰える様子はない。
そして僕たちはさらに上流へ行く気満々だった。まだまだ夏を終わらせたくなかった。