2019 釣乃記
第拾六話  洗われた渓と風と
(う〜む、微妙かも)
僕は川筋の水位を見て、安心なのか落胆なのかよくわからない感情になっていた。
安心は増水で遡行がむつかしいようだったらどうしようかと思っていたからで、落胆は予想以上の減水が狙いのポイントの可能性を狭めてしまうことになる。
両方の感情があるのは増水でも減水でもない、平水だということだ。
(平水? 金曜の避難勧告の雨はここらではちょっと?)
田植えも済んだ里。もう夏がすぐそこまで。
釣り具屋でHさんとYさんに、雨のあとの中一日空けての釣行宣言をした翌日の日曜日、僕は宣言通りに川に立っていた。
複雑な結果になった水位。しかし川を歩くと石のヌルが増水で洗われているのがよくわかる。しっかりグリップできて滑らない。
ここから増水時に狙うポイントは全部で七ヶ所。いくら平水に戻ったからって、一度増水で洗われたのなら何ヶ所かでかなりの型が望めるはずだ。
僕はやはり緊張していると感じた。
昼食&昼寝のあと、六ヶ所目をやってみた。
沈み石の向こう側、ここは居るでしょ、というポイント。
キャストすると一発で出た。合わせた瞬間、プッという感触。切れた。またやった。

ふっと風が吹いた。乾いた初夏の涼やかな風だった。これはまだ湿気の残る土曜日よりもこの日だから味わえた風だと思った。
HさんとYさんにこの事を話そう。僕はそう思いながら七ヶ所目へ向かった。
うむ! 今回は滑らない。増水でヌルが流れたな。
ようやくどんぎつね様のレモン仕立て塩豚ねぎうどんを!
待望の雨、いや避難勧告が出たのだからそうとも言えないか。とにかく被害は出ず川もリセットされた。一週間前の渇水の釣りがひどかったから、あの時の分も取り戻すつもりで釣らなければ。
草刈り機の音が響く。川の隣の田んぼの土手の草刈りだろう。解禁からGW頃まで通っていた里の川に来たという実感が湧く。
三ヶ所目、細長い小プール、少し前へ出る。と、大きな影が走った。(! でかいっ!!) あ、やってしまったのか? かなり手前に居た。増水時にしのぐための場所だったのかも知れない。そしてここの本命ポイントは沈黙したままだった。
本気寝しそうだったのに、着信ワン切りで目が覚めた(>_<;)
なんでもないチャラ瀬で出たヤマメ様。増水時の避難場所?
7Xでないと釣れなかった(?)ヤマメ様(^^;)
この尾ひれが増水も切り抜けさせるのだな。
四ヶ所目、反応なし。その少し上流で気を抜いて投げたらバシュッと出た。掛かったがジャンプで外された。むむむ〜。

五ヶ所目、バシャッと出たが空振り。いやまだ可能性はある。
ティペットを7Xにした。今しがた出た流れにキャスト。モソッとフライを食った。
ようやくバンブーロッドから重い感触が伝わった。
ここはGW合わせ切れポイントのひとつだったが、その時のヤマメではなさそうだった。
一ヶ所目、出た! 合わす!強い!! くちびるを弾いてフライは宙を舞った。
いかんいかん、またGWと同じヘマをやらかす訳にはいかない。
二ヶ所目、フラットな流れでヤマメが飛び出した。今度はフッキング成功。増水明けのヤマメはすこぶる元気だ。

この流れはGWで良型をふたつも合わせ切れした川だった。雨で増水したらもう一度来て合わせ切れの二匹を釣ると決めていた。
路肩の花が途切れる遥か先に車が・・・遠いな〜(^^;)