2019 釣乃記
第弐話  次の釣りと薄らぐ春
(なるほどなるほど、こうきたか) 川の水に手をつけて水温がどれくらいか、なんて確認する気が起きない。
見るからに冷たそうな流れ。極小の虫がはらはらと翔んでいるのは見えるが、それ以外は全くのシーズン初期の景色だった。
水は、多いというか、まあこれくらいある方が、くらいの水位だった。でも陽は当たっているから水温が少しでも上がるには、水は少ない方が早い。
それらをかんがみて、僕はニンフでいく事にした。
先週より今週の方が間違いなく解禁直後、と言う感じ。
晴れて気温は上昇。ただし水の中は冷たいまま。
季節が行ったり来たりで、カゲロウさんも大変ですね。
マーカーに反応なしで遡行を続けて一時間が過ぎた。そして見えてきたポイント。この流れに入るのはこのポイントのためだけだと言っても過言ではない。
ハッチもライズもなく、陽射しも届かない小プール。過去、ここで最大は25cmくらいだったと思う。今年は居てくれるか?
ここはドライフライで攻める。
風が吹き始めた。この日の釣りが終わってからわかったが、強風と花粉飛散量はこの春一番だったようだ。よく耐えて夕方まで過ごしたな。
朝、家で荷物を積み込む時は車のフロントウインドウは凍っていた。気温は2度。川に着いた時は1度。道路脇の農地には霜が降りていた。明らかに季節が逆行している。いや、と言うよりも、解禁当初としてはこれが普通なのかもしれない。
前回毎年入る場所を取られたことが、その場所での釣りをなにがなんでもしてやる、と言う気にさせていた。車を停める場所は空いていた。ここで前回のように先に昼飯を食べる手もあるが、それで場所を取られたら悔やみきれない。
まだあと1時間は遅く入ってもいいのだが、僕は川に降りる事にした。そしてこの冷たそうな流れを前にたじろいでいる訳だ。
昼飯の時も鼻水くしゃみは止まらない。ぐったりして車に入り、そのままぐっすり眠ってしまった。かなり消耗していたからだろう。
目が覚めると花粉症の症状もやや落ち着き、外は風も止んでいた。あと一ヶ所くらいやってみようという気になった。

枝葉が伸びてロッドが振れなくなる寸前の頃がいい流れ。辛うじて小さいヤマメが出てくれた。ここはまだ早いな。
幻影か? と思ったが手は反射的にロッドをあおっていた。
結果は空振り。当たった感触はなかったので食ってない。しかしそのあと何度流しても出なかった。ワンチャンスだったな。かなりの型だった。ちゃんと居てくれたんだ。

田んぼの動物避けのフェンスが強化されていて、いつものエスケープルートは使えず、かなり大回りで道路に出た。
この時点で強風と鼻水と目のかゆみはピークに達し、半ば諦めかけていた。
久々のいなばのタイカレーとどんぎつね様の限定蕎麦。
大きくなって、またおいで。
夕暮れの帰り道。咲きそろった梅が見送ってくれた。
前回、次から苦戦すると予見したことが的中した。当たらなくていいのに。
「釣れますか?」と、川沿いのお宅のおばあさんが声をかけてきた。
「小さいのが。今週はまた寒くなりましたね」
「そうそう、また冷えました」
「先週はよかったんですがね」
・・・先週はよかった? 
あれは、本当の出来事だったんだろうか。今でもフライに出た時の様子が思い出される。でもなぜかそれは現実味のない幻のような気がしてきた。
梅の花もスギ花粉に困惑気味?