其ノ四百九十一  未練の島へ再び
「昨夜からやってたが全然ダメだったよ〜」と片づけをする釣り師が言った。
「小さいメバルは釣れるがアジはダメ。まあやってみて」とその人は帰っていき、それと入れ替わるように三人連れの釣り師がやってきた。
僕は自分のやりたい場所を陣取り、ラインを出していると
「どうですか〜?」と三人のひとりが声をかけてきて、
「来たばかりなので」と返した。あれ? このやりとり、確か前にも。
小潮の上げ七分、期待した反応は薄い。
そう、思い出した。先月、同じこの防波堤で会った人だ。僕の釣り場にあとから来る釣り師が微妙な距離で割り込むのを防いでくれる防護壁さんとその仲間の人たちだ。
前回会った事やさっき帰った人が釣れなかったなど、ざっと話して彼らは例によって僕の近くに荷物を置いた。内海側をやる彼らと外側の僕とは干渉しないから釣りは問題ない。そして今回もきっちりと防護壁の仕事もこなしてくれるようだ。
しかし、この日、二月中旬は釣りの条件としてはかなり厳しい。一番の懸案事項は産卵後でメバルが姿を消している事だ。
この日の釣りに選んだ七つの橋の島の四番目の島、これから上げ潮なのはいいが過去、小潮でどうだったか?
実際潮が目立って動いていない。これが大潮との決定的な違いだ。
エギングロッドを持った若い二人がやってきた。防護壁さんのグループに混じって釣り始めた。防護壁さん達は元からほかの人が近くで釣る事をなんとも思わないのだろうけど、エギングの二人もずいぶんと大胆だ。
久々のダブルカップもぐもぐタイム。どん兵衛塩だしそばは秀逸。
あいや、チビメバル様、ごめんなさいm(__)m 暮れなずむ七つの橋の島。
そもそも前回のこの釣り場で、過去の実績にこだわり頼る釣りは終わりかな、なんてことをちらっと考えていたのに、あっさりとまたやって来た。ちょっと仕事の繁忙期が峠を越えた事もあり、気持ちが軽くなった分フットワークも良くなった。
この釣り場に未練がないとは言えない。一年前の快釣を思い出すと、近くまで来たらやっておくか、という気持ちになる。
しかし、現実は甘くなかった。だいたいに釣れなくなったのに加えてこの日の小潮。何度か潮流が早くなり、その時だけ魚影が一気に見えてきて、まずまずの型も表層で餌をついばんでいるのが見えた。しかし、フライには見向きもしてくれなかった。大潮よりも潮流の発生する時間が少ない分、そのわずかな潮流の捕食チャンスに僕の不出来なフライをくわえてくれる物好きなメバルはいなかったということか。
防護壁さんは例によってビールを飲んで防波堤にころがって眠ってしまった。エギングの二人は防護壁さんの連れの人たちと釣り談義で盛り上がっている。
ほぼ満潮になり、僕はこの港を離れる事にした。結局前回と同じく過去の実績に頼るのは・・・と考えてしまう。それでもひょっとしたら、という気持ちは時間をおいてまた頭をもたげるのだろう。
僕はまた三番目の島の夕まづめに賭ける事にした。
結局この暗さの時間までやっちゃうんだよな〜(^o^;)
三番目の島は小潮でも潮流が激しい。着いた時は下げ潮の真っ只中で、チビメバルの姿が見えていた。
防波堤沿いにキャストしカウントしてリトリーブ、と、引っ張っても動かない。あ。引っ掛かっている。防波堤貫通ポイントに吸い込まれた。
フライを結び直しキャスト。フライラインは見えていても水中のフライはかなり動いている。と、引くとまた動かない。また引っ掛かった。二投で二つフライをロストした。
そしてやってきた、久しぶりの良型メバル様。
翌日、今年のフライのカタログを見に釣具屋へ。渓流の解禁が近いから店の品揃えもそれらしい物が出始めている。
馴染の顔ぶれがそろい、あれこれ話に花が咲く。そして僕は前の日の島行きの話しをし、その釣りを思い起こした。

潮流が激しく次々と手持ちのフライをなくした。新たに巻いた最後のフライを投げて引くと動かない。また引っ掛けた? と思った次の瞬間、ロッドが強く引き込まれた。
翌日の日曜日は雨。スパゲティに目玉焼き乗せてまったりと(^_^)